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小さな英語教室

By Yuri Kiba / キバ・ユリ

オーストラリア人の夫と結婚し、シドニー在住歴24年の筆者が、学校とは離れた教育の場で、子供たちを見ていて感じたこと、考えさせられたことを紹介するコラムです。
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Yuri Kiba / キバ・ユリ

Vol. 37 : Cafe de la paix

 さて、前回お話した主人が70歳になり、日本に執着する理由。それは、英語を通して知り合った多くの日本人でした。本当にひょんなことから教え始めたのですが、面白くなってやめられなくなったようです。「生活のため」という意識がない分、生徒に対する興味の方が旺盛で、今は大盛況。断るのに四苦八苦しています。

 生徒さんたちのバックグラウンドたるや、官公庁、新聞社、銀行、モデル、ファッション関係、弁護士、ベンチャー、電力会社、ホテル、自動車メーカー、商社、美容師、大手広告代理店、ご年配、赤坂の芸者さん…と、まさに日本社会の縮図。会社関係の生徒さんたちから、ニュースの裏話を聞けるのも醍醐味のようです。また、教える場所がわが家から近いので、散歩がてらに一石二鳥。

 そこで、タイトルのCafe de la paixなのですが、これは、主人が個人で教えている生徒さんと、自宅でのレッスンのあと出没する青山の喫茶店です。気が付かないくらい奥まった静かな所にあり、蔦が絡まった主人お気に入りの場所。最後の文字は「ぺ!」と読みます。本を持ち込んで、1人でコーヒーを飲んでいる地元の方が多いとか。そこへ、会社帰りのスーツを着た女性やモデル志望者など、毎回違う若い女性たちと現れるものだから、最初は、喫茶店でも「何?この人」という顔をされたと、主人が苦笑していました。ですから、初めて私が行ったとき、一斉に振り向いたカウンターの人たちの顔が、「誰?このオバサン」と言っているように見えたのは思い過ごしだったでしょうか。

 このカフェに出入りするのは、もちろん女性ばかりではありません。息子もたまにおとっつあんとだべりに出かけているようですし、3年近くレッスンを続けているベンチャー企業の男性もレギュラーにいらして、主人にしてみると勝手知ったる隣のわが家。先日「シャンペンを入れたらどうかね」と言ったら、翌週、メニューに載ったとか。

 生徒たちを集めた大きなイベントは、有栖川公園で毎年開く「お花見」です。息子が場所取りで、ぶつぶつ言いながらも朝早く出かけます。今年は十数人集まって盛況でした。また、最近は、オーストラリアの食肉会社に就職した女性の生徒が、ラムのバーベキューパーティーを開催。これも大勢いらして下さったようで、至極ご機嫌で帰ってきました。

 一風変わったところでは、2年程前、赤坂の芸者さんがレッスンを受けてました。最初は英語をゼロの段階で始め、外人客が来たときのあいさつや、飲み物の訪ね方などを、主人も苦労して?教えたようですが、随分上達が早く、半年後には簡単な会話をこなせるようになりました。しかし、先輩の芸者さんたちとの折り合いが悪く、レッスンは楽しいと言っていたのですが、しばらくしてやめられました。驚くほどの上達だったので、主人が大変残念がっていました。多分、実家の方に帰られたのでしょう。

 思えば、最近も、長い間個人的に教えていた生徒が2人いなくなり、少し寂しいようです。1人は、投資銀行に勤める女性で、結婚直後、ご主人のアメリカ転勤に合わせて渡米。金融の第一線で活躍する姿と裏腹に大変素朴な方で、主人が大好きな生徒の1人でした。神田の教会での結婚式に、招待もされていないのに行き、逆に大歓迎を受け、引き出物まで頂いて帰ってきました。あと一人は、ロンドンに駐在したことのある若い男性の銀行員。英語が流ちょうなため、日本に来てから、主人が彼から得た情報は大きいものがあったようです。しかし、最近起きた銀行合併の事務処理で、しばらくお休み。

 もちろん個人のレッスンだけでなく、会社でのレッスンの話も機会あるごとに出ています。彼らはさまざまな面で優秀だと主人は言います。日本社会のシステムの良さや欠陥など、短期間で随分知識を得たと思いますが、同郷の人々から離れ、多くの日本人と直接話す機会を得ていること、これが本人の自慢でもあるようです。

 あえて欠点を言えば、今まで秘書が事務処理をやってきたので、自分の書き入れたメモ(解読不可能)を頼りに動き回っており、ご迷惑をかけていることでしょうか…すみません。

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