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小さな英語教室

By Yuri Kiba / キバ・ユリ

オーストラリア人の夫と結婚し、シドニー在住歴24年の筆者が、学校とは離れた教育の場で、子供たちを見ていて感じたこと、考えさせられたことを紹介するコラムです。
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Yuri Kiba / キバ・ユリ

Vol. 44 : シドニーの、ある夜のディナーで…

 4年ぶりでシドニーに帰ったある晩、主人の知人と6人で夕食に出かけました。オーストラリア国営放送とSBS国際テレビ局で経営にあたり、今は退職して週末を農場で過ごしているブライアン・ジョーンズ氏と奥さんのセラ。そして最近日本を3週間かけて旅行したジェームズ夫妻。ご主人は以前ジェームズ氏のかたわらで国営放送の製作を担当し、今は退職。奥さんのパトリシアは医者です。その夜、旅行の話から靖国参拝、オーストラリアのメディア、最近見た映画など多岐に渡って話がはずみ、牡蠣(かき)やバラマンディー(マングローブの生い茂る、海水と淡水の混じり合ったところに生息する魚)など、シドニーの香りがする食事とワインをはさんで、楽しいひと時を過ごしました。

 ジェームズ夫妻は、日本旅行の出発前、京都周辺で日本的な良さが残っているところを旅したいとのことで、主人は旅行好きの生徒や息子に聞き、島根県を推薦しました。ファッション関係の仕事で英語を習っている和彦さんという方が入手した英語のパンフを基に、くまなく旅行したようです。写真には、川辺の露天風呂に入っているものもあり、宍道湖の写真も有名な夕日が背景でした。しかし、景色よりも何よりも一番感激したのは、山陰の人々の優しさだったとか。道を尋ねると、その場所まで連れて行ってくれるなど、旅で出会った温かな思い出は尽きないようでした。

 夫妻は毎年ヨーロッパを歩くツアーを組んでいるのですが、今年は、医者であるパトリシアの、九州での新針治療研修がキャンセルになったため、急きょ旅行に変更したとのこと。温泉ではご主人のアンディーが、湯殿に行こうとして、メガネを外していたため間違えて玄関口に出てしまい、ちょっとした(かなりな)騒動も起こしたようです。夫妻はこの旅行ですっかり日本びいきになり、この次は四国八十八ヵ所霊場遍路巡りをやりたいと言っていました。

 さて次は出雲大社の話から、小泉首相の靖国神社参拝に移り、全員が小泉支持なのには驚きました。反対を唱える国々の主張内容は妥当ではないと批判するのですが、日本の侵略に関して、日本人である私は何とも微妙に意見を言えないところがあります。

 しかし、兄2人を戦争で失った母、シベリア帰りの父を持つ者として、「戦死した普通の兵隊さんたちのために首相が畏敬を表してくれるのはありがたい」と思います。小泉首相の本音もそこにあることは明確で、だからこそ批判にもめげず参拝している。お国のために戦って死んだ普通の兵隊さんたちがA級戦犯と同等に扱われ、放っておかれるのは気の毒です。小泉首相がもしその点を強調して国民に問いかけたならば、郵政民営化と同様、国民の多くは賛成に回るでしょう。いつぞや実家で靖国参拝の話をしていたら、痴呆気味の父が宙を見ながら「小泉っていうのは気骨があるな」と言ったのも、まんざらボケからきているものでもありますまい。当時19歳だった一人の兵隊の言葉です。

 話は変わり、アンディーとブライアンは共に国営放送の仕事をしていたので、今のオーストラリアのメディア経営に怒り心頭しています。現在オーストラリアでは、民間テレビ局をすべて傘下に収めたマードックなど二つの巨大資本が政府に圧力をかけ、国営放送の視聴者を減らすような方向に向かっているとのこと。このため、予算は削減され、新しい番組制作は制限を受け、教育テレビやデジタルテレビ導入も廃案となりました。番組の多くは外国の映画やシリーズ、スポーツ中継などが占めています。

 日本のNHKの制作費の豊富さは彼らの語り草で、その番組制作の自由さはうらやむばかりだとか。そこでいつもの突拍子もない質問。「NHKの外国番組のパーセンテージはどれくらいか」。「そんなこと知るか」と言いたいところだけれど、よく考えてみると、ゼロに近いのではないかと思います。あったとしても番組の選択は練られ、日本語の字幕や吹き替えがあるため経費がかなりかかっていることは確かです。また、民間でも巨大資本の影響がないので、オーストラリアのテレビ局ほど外国映画や番組は頻繁にはかかっていませんし、NHK・民放ともに独自で製作したドキュメンタリーには素晴らしいものがたくさんあります。日本へ来て私がそれらドキュメンタリーから学んだものは多大でした。今後、巨大資本が日本のメディアを侵食するのは避けられないことですが、オーストラリアの今の現状のようにはなってほしくないと願うばかりです。

 そのうちに映画『ロスト・イン・トランスレーション』の話になり、長年、映画のランク付けの仕事をしていたセラは大変批判的。私もあまり好きな映画ではありませんでした。「でも、日本に行って一流ホテルに閉じこもる外国人って多いんじゃない」と言う人もいて、それを思うと、田舎を旅し、素朴な日本人の心に触れ、感激極まったジェームズ夫妻とは全く異なる人種が主人公でしたね。

 本来の私は出不精で、日本でも社交的ではなく、パーティーは大の苦手。カクテルパーティーの類は一生出まいと誓っているほどです。しかし、こういった意識の高いオーストラリア人の知己との集いで得たものは大変に大きい。その点で、私は恵まれていたのだと改めて思った一夜でした。

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