今回は、まず、息子が入学してすぐ私が送った、段ボール5、6箱の生活必需品についてのメールです。そのとき、息子に確認の電話を入れたのでよく覚えています。「着いてるには着いてるんだけど、寮じゃなくて、カレッジのポーターのところに来てるよ」とのことでした。なぜでしょう。フローリーと呼ばれる、クイーンズカレッジのFreshers(新入生)専用の寮宛てに送ったつもりだったのに。学期が始まる前のことで、寮が閉まっていたためカレッジに届いたという理由も説得力はなく、いまだに真相は謎です。
でも、とりあえず着いたというのでホッとしたのもつかの間、よく考えてみると、クイーンズカレッジのポーターのオフィスは、1341年に建てられたいかめしい正門のすぐ裏側にあるのです。そこに山積みとなった息子宛ての段ボール。「目立たない?」と聞いたら、「門の近くですれ違う学生たちが、『君のところに小包がたくさん届いてるよ』って知らせてくれたよ」とのこと。カレッジ全体で330人前後の生徒しかいませんから、新入生でも誰なのか分かるのでしょうが、段ボールが目立ったことは確かです。そして、主人にメールを送り…。
「お母さんに、『たくさんの小包をありがとう』と言っといて。『こんなもの送ってくれって頼んだっけな』っていうものが多かったけど、とてもうれしかった。難を言えば、衣類の何枚かは僕のじゃないよ。全然サイズ合わないもの。捨てていいのか、送り返すべきか、連絡ください」。
なんと!冬に備えて衣類を入れたのは確かなのですが、どうやら主人のものも入れてしまったようです。イギリスとオーストラリアでは夏冬が逆なので混乱もします。そういえばその年の冬、主人がセーター類を一生懸命捜していたような…。
そのころ主人が送った手紙を読んでみると、息子の部屋の模様替えに熱心にアドバイスしているのはよいのですが、いつものごとく、自分の考えを押し付けるアクの強さが出ていて…。
「どうやってそんなに良い部屋を手に入れたのかね。想像するに、君の部屋からは、古いスレートの屋根の破風や、時折顔を見せるイギリスの太陽に反射してきらりと輝く風見鶏なんかが見えるんだろうね。教会の尖塔も見えるかな。ヘンリー8世の愚策でそんなものはないだろうな。なにせ妻を3人も殺した奴だからね(自分はカトリックなので、教会を破壊したヘンリー8世には大変な敵意を持っているのです)。それに比べれば、一度に3人の妻を抱えていたルドウィックの方がまだいいよ(どこがいいのですか?)」
「君の部屋の中を思い浮かべると(思い浮かべないほうが良いのでは…)、イギリスの冬には絶対に敷物が必要だ。その暖かさと心地よさに付け加えて、壁にも何か飾ったほうがいい。勉強と社交で時間は少ないとは思うが、もう少し部屋の中の説明をしてくれないかね。床はオーク材かな(そんなこと19歳の息子が知るわけないでしょう)。ドアーと窓の枠には何か彫り物でもしてあるのかな。天井の漆喰も装飾が施されて、シャンデリアでも付いているのかね(新入生の寮にそんなもの付いてるわけがありません!)」。
「敷物に関しては、オックスフォードの裏通りでパキスタン人が売っている敷物(そんな人いるのでしょうか)は、大体一枚50ポンドくらいと見ておいた方がよい。普通、500ポンド相当から売り始めるけれど、50以上は絶対に払ってはいけない。それ以上の値段を言ってきたらすぐその場を立ち去ること。(全部の敷物を50ポンドに値切っていたらパキスタン人のカーペット売りは野垂れ死じゃないですか)。まあ、学生にはキリム(敷物の種類なのですが、嫌な予感が…)あたりがいいんじゃないかな。最近シドニーで良いのを見たので、買って送ってあげてもいい(当たり!これが本音なのです)」。
この、笑えるというか、頭に来る手紙はまだ続きます。
「オックスフォードには、ディケンズの小説を思わせるような古い店があって、壁に貼るプリントなど、なかなかの掘り出し物も見つかるから、行くといい(何年も住んだような言い方です)。壁に絵のフレームがたくさんかかっている店があるので、それを買ってプリントにはめることを勧めるが、先にプリントを買い、そのあとにフレームを見つけること。先にフレームを買うと、プリントが合わないことがある(そんなこと幼稚園児でも分かりますよ)」。
結局、敷物は、息子がオックスフォードで物色している最中に、主人が勝手にシドニーで購入し、送ったのですが(いつもこんな調子なので驚きませんけど)、その直前の息子の手紙には…。
「講義で横に座っていた友達に、『父が知りたがってるんで、今日、自分の部屋の測量をしなくっちゃ』と言ったら、ぽかんと口を開いて僕の顔を眺めてたよ。僕の方も、理由を言うのが馬鹿らしくなって、呆れられたままにしといたけど」。
と書いてありました。
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