セリアック病という病名を聞いたことがありますか。通称「小麦アレルギー」というのだそうです。その言葉を初めて聞いたのは、この3月、オーストラリアから主人の親せきが来る直前でした。7歳になる娘のハンナがその症状を抱えているので、アレルギーの原因となるグルテンを抜いた食品が日本で入手できるのか調べてほしいということでした。
まずは「小麦アレルギー」という日本語を見つけ、そのサイトから食べてはいけないものの情報を得るまでにかなりの時間がかかりました。さもありなん。「イタリアとアイルランド南西部では300人に一人の割で見られるが、日本では非常に稀」という疾患であったからです。しかし、大腸ガンと同様、食品の西洋化が進むにつれ、その数は日本でも増えているとのこと。
説明では、「小麦を消化する能力が十分ではなく、小腸の内壁がグルテンや同種のたんぱく質の摂取でダメージを受ける人の疾患」とあります。多様な症状があるようですが、今回の旅行で、とりあえず注意しなければならないのは、少量のグルテンの摂取でも起こる下痢でした。
しかし、詳細を読むにつれ、グルテンを含む食品の多さに目が点となり、「冗談でしょう」というのが本音。中でも致命的なのが、しょう油でした。そば・うどん・ぎょうざの類は何とか避けられますが、しょう油なんて食品のどこに潜んでいるのか分かりません。顕微鏡を抱えて買物に行く自分を想像したりしてしまいます。
あきらめ半分でしたけれど、サイトをさらにクリックしてみると、小麦アレルギーの患者のために、米の粉で食品を作っている会社を数社発見したのは驚きでした。この疾患が確実に日本に増えているという証拠です。うれしさと悲しさが一緒になったような複雑な気持ちで、さらに詳細を読むと、会社を立ち上げたのはほとんど女性。自分たちの食品に対する経験からヒントを得たようです。感心しました。特に、子供向けの食品に工夫を凝らしています。これらの会社は地方にあり、注文は通販のみ。理由を説明し、至急送ってくれと言ったら、翌日送ってくれた会社もありました。
さて、親せき一同は、東京駅に4時間遅れで到着。真夜中でした。飛行機から燃料が漏れているのを乗客が発見し、メルボルン空港に戻ったためだったとか。ちょっと信じられない話です。元気なのは、機内でよく寝たというハンナだけで、両親は目が真っ赤。ディズニーランドのホテルに直行するので、おにぎりや果物を渡し、ホテルで役立ててもらうべく、ハンナの症状を書いたメモを数枚持たせました。そして東京へもどってきて曰く。ホテルのレストランで、そのメモを使用したら、シェフが厨房から出てきて、たくさんの食材を見せ、確認をしてから調理してくれたとのことで大感激でした。「ミルクで煮た鮭がとてもおいしかった」とは本人の弁。
サイトには「疾患の原因はわかっていない」とありますが、ハンナの母親、リアーによると、パンの中に大量の保存料が含まれており、主食がパンである西洋に患者が多いとのこと。このため、オーストラリアではセリアック病に対処した食品は、スーパーマーケットで簡単に入手できるとか。
それでも、皆が来る直前入手した米粉食品を披露したら、そのバラエティーの多さに驚いていました。キャンディーやふりかけ、米粉でまぶしたチキンまであったからです。疾患を抱える子供のための食品をと、開拓精神を持って生み出した日本の女性たちのアイデアです。一般の食品では、日本の魚介類の豊富なことが助けとなりました。回転寿司では、7歳のハンナの前に積まれた皿の数はなんと8枚。皆、開いた口がふさがらず。でも、親にしてみればうれしい悲鳴です。
その後、一行は主人と京都へ。私は行けなかったので、ホテルにハンナの症状を前もってファックスしたところ、さっそく電話があり、対処しますとのこと。そして、彼らが到着した際、英語を話せる受付の人が、リアーを日本料理のシェフに紹介し、食材の相談をしてくれました。その夜、ハンナは米粉を衣にしたてんぷらを食べたとかで、これも大感激。
そんなこんなで、日本では小麦アレルギーでも食べられる食品の多いことに驚き、消化不良にもならず、観光でも買い物でも、行く先々で日本人は礼儀正しく大変親切だ、という印象を持って帰っていきました。私も、日本の国と日本人の良さに、改めて感激した10日間でした。
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