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小さな英語教室

By Yuri Kiba / キバ・ユリ

オーストラリア人の夫と結婚し、シドニー在住歴24年の筆者が、学校とは離れた教育の場で、子供たちを見ていて感じたこと、考えさせられたことを紹介するコラムです。
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Yuri Kiba / キバ・ユリ

Vol. 64 : 留学の思わぬ結果 (その1)

 先日、郷里の知人や妹から立て続けに、海外生活の長かった私のアドバイスを聞きたいとの電話がありました。「それがねー」という、どこから切り出だしてよいのか分からないような口調に、聞かずしてどんな内容なのかピンときました。オーストラリアにいたころから、この手の話が多いからです。

 まず妹の話の主人公は、パリに留学中の会社社長の一人娘。学んでいる学科はここでは重要ではないでしょう。どちらかというと、何でその科目を学びにフランスなんぞへ行くの?という感じの学科で、「親の財力による留学」の典型的なパターンです。

 さて22歳の彼女の問題は、というと、当然現地のボーイフレンドです。彼は30代半ばだそう。話の内容から判断して「もしかしたら移民じゃない?」と聞いたら、親がトルコとアルジェリアにいる、とのことでした。きっと離婚したか、不法滞在か何かの理由でそれぞれの母国に強制送還になったのでしょう。今働いているレストランの経営を委任されているそうですが、親への仕送りのため貯金はありません。

 その彼の当座の夢は、彼女と日本へ行って中東系のレストランを開くこと。ただし、本人はシェフではなく、日本語も話せません。彼の考えでは、知人のシェフを日本へ連れていくのだそうです。そしてレストラン開設の費用を、彼女の両親に全面的に面倒見てほしい…。

 確かに誰が聞いても非常識な話で、付き合いは金銭目的だけのようです。ただし仲介を通した話だけでは不明な部分もありますから、「金は一切出さないことを貫き通すこと。愛情が本物だったら、2人で苦労してやってくでしょう」とだけ言っておきました。

 彼女の父親は一代で事業を起こした人ですから、当然そんな甘い話に乗るはずはなく「金は出さない!」。母親も厳しく叱責したのですが、「かわいそうだ」という気持ちが残っていて、海外生活の長かった姉を持つわが妹と話をして、自分の気持ちを確かめたかったようでした。

 母親の話によると、最近娘から連絡があり、フランス人の学友たちが交際に猛反対していること、彼が仲間に「いい金づるが見つかった」とか「東京での大成功を手にした」というような話を吹聴している、というようなことを言っていて、娘の気持ちも大分揺れ動き始めているとのことでした。娘自身もフランスに永住する気持ちはなく、彼への愛情も、移民への同情の域を超えなかったようです。

 その家庭では兄たちがしっかりしており、母親も気丈夫で、一人娘を甘やかして育てたことを反省していたとか。健全なご家庭のようですから、あとは時間の問題でしょう。しかし、こんなとき、子供のために資金を惜しまない家庭が日本にはあるのだろうと確信します。

 誤解を招かないために言っておきますが、これは移民への非難ではありません。フランスでは、最近の移民による暴動で、野心のある移民の多くは、フランスでの生活を見限っているようです。そこで金のありそうな女性をひっかける下心もできてくるのでしょうが、これは、社会的背景が生み出した「人間の物語」で、批判するのは難しいところ。

 問題は、日本女性がそういったわなに簡単にひっかかることです。この彼女の経験は、人生においてある意味では役にたったのではないかと思われますが、オーストラリアでは、悲惨なケースを頻繁に耳にしました。

 外人とは付き合うな、という低次元の話ではありません。私も日本と海外の生活を通し、若い日本人女性が簡単に誘惑に乗る背景は、おぼろげながら理解もできますし、それだけに切ないものがあるのですが、問題だと認めるものの簡単に批判できないのは、この移民の話と同様、日本という社会が生み出した「ある人間の物語」だととらえているからかもしれません。

 私にできることは、道徳めいた説教より、これらの「人間の物語」を多く紹介することでしょうか。次回は、知人からの相談事を書きますが、これらの話から読み取っていただけるものがあったら幸いです。

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