今回は、知人が語った近所の留学生の話です。その家庭では、去年、長男が6年かけてようやく医学部に入りました。大学のランクはかなり下でも、医学部には変わりなく、周囲のシラケた目をよそに、母子共に大騒ぎだったそうです。浪人6年とこれからの医学部6年。大変な出費です。さて、問題の主人公は長女なのですが、前回と同様「親の財力」で1年間カリフォルニアに留学しました
この家庭では、父親は仕事の関係で異動が多く、子供たちは幼児のころから母親だけに育てられたと言っても過言ではありません。そして、その母親は、長男でお分かりのように大変な見栄っ張り。また、母親の父が地方の有力者ということもあって、いざというときには経済的な援助を受けられるという余裕もあります。事実、これからの長男の学費は祖父が全額払うことになっているとのことでした。
問題の長女は21歳で、東京の私大に在学中、アメリカへ1年間私費留学。知人が電話で「この子がね〜」と言っただけで、私には何の問題かすぐに分かりました。妊娠です。帰国直後に体の不調で分かったとのこと。私自身、長い海外生活の間、うんざりするほど聞いた話です。
しかしそんな私も、彼らの後日談は聞いていませんから、知人から、その家の模様を聞いて大変驚きました。同じ年ごろの子供を持つ知人は、この家庭とは長い付き合いなのでだいぶ巻き込まれたようですが、彼女によると、母親が、「恥知らず!」とか「私の人生を返してちょうだい!」などと泣きわめいて娘を殴る蹴るの大騒動だったそうです。
「『私の人生を返せ!』ですって。子供そのものが彼女の人生なのよね。哀しくなるわ」とは知人の弁。子供の成功を吹聴する親は世界中どこにでもいますけれど、その過程を一挙一動コントロールすることに没頭するあまり、母親の魂が子供に乗り移ってしまっているような現象は、現代日本を象徴しているようにも思えます。
このような環境で育った娘ですから、親を説得するのにも「ハーフだから可愛いジャン」という低次元。大学院の学生だという相手も、「生活費を日本から送ってもらいたい」とか「子供は日本に送るので、面倒を見てもらいたい」という要求をしてくる常識のなさ。話の内容から想像するに、移民かと尋ねたら、メキシコ人だとのこと。前回と同じく誤解のないように。ここでの問題は貧しい移民のモラルではなく、簡単にひっかかる若い日本人女性なのです。
この家族の場合、母親の、娘の留学への期待は「世間的に箔がつく」という以外何物でもなく、娘自身の期待感もそれなりに想像がつきます。そこにはまた、「うるさい母親からの解放」というような感情があったかもしれません。ただ、前回の話と同じではっきりと言えることは、愛情が本物ではなかった… 紆余曲折はあったものの、娘は子供を処置して、何事もなかったかのように大学に通っています。
言葉の不自由な大学生の、留学の現実は厳しいですよ。現地の学生は、意志疎通が自由な友達と付き合った方が、情報交換はできるし、楽しいし意義もあるから相手にしない。疎外感から日本人同士が固まる。そこから脱却するのには無理を押す。特に短期留学の場合はあせりも出ます。そこに落し穴が待っている。落し穴のモラルの欠如を妥当化して問題を起す…これは、留学だけのパターンではありません。
そのモラルの欠如を妥当化する判断はどこからくるのか。このケースを見る限り、家庭ですね。知人は、その母親から相談を受けたとき、「あなたの育て方が悪い」と言ってきたとか。母親は少し考えるところがあったようです。
以前、シドニー在住の日本人の知人が、日本のある大都市の市長の娘を1年の短期留学であずかり、帰国後妊娠したことを知って、うつ状態に陥りました。現地での世話役の心痛は家族以上です。その話を聞いて以来、私は、誰の世話もしないことにしています。
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