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カズの取材日記

By Kaz Nagatsuka / 永塚 和志

スポーツ記者、永塚和志が取材を通じて遭遇した様々な出来事・人々について語るエッセイです。
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Vol. 8 : Kazmanian Devil's 取材日記

 ちょい悪オヤジならぬ、ちょいデカオヤジが突っ込んできた。

 4月30日、有明コロシアムでbjリーグの3位決定戦とファイナルが行なわれた。日本初のプロバスケリーグ、初年度の最終日ということになる。

 夕方からのファイナルに先立ち、前日の準決勝で敗れた東京アパッチと仙台89ersが対戦し、アパッチが勝利して3位を確定した。試合後の記者会見、僕は会見場入り口のすぐそばで、ジャパンタイムズ運動部部長のジャック・ギャラガーと若き記者スティーブン・エルセッサーと陣取っていた。

 まもなく、アパッチのジョー・ブライアントヘッドコーチが現れる。ブライアントコーチは会見上に入り、席につくかと思いきや、僕めがけていきなりタックルをしかけてきた。虚をつかれた僕は、何もできずブライアントコーチからうしろにあったソファー上にテイクダウンを許した。

KAZMANIAN DEVIL'S WBC 取材日記
 もちろん、これはブライアントコーチの「お遊び」である。開幕前から、僕は何度か取材をしていたこともあり、ブライアントコーチには仲良くさせてもらっている。いわば親しいからこそできる戯れだったのだ。ちなみにこの模様は、エルセッサー記者がジャパンタイムズオンラインのコラム「E-List」にてすでに記しているのでそちらも見ていただきたい(どうですか、この仲間のコラムを宣伝する心遣い)。

 僕は格闘技が好きなのだが、格闘技では選手は体重差というものを非常に気にする。5キロ違えばパワーにかなり影響するものらしい。また、向き合ったときの圧力も、体重が重いだけでだいぶ増してくるのだ。

 しかし、実際にテレビを見ていても一般のわれわれには画面に移っている100キロ以上のヘビー級の選手のパワーと圧力がいったいどれほどのものか、想像がつかない。K-1に武蔵選手という日本人トップファイターがいるが、彼は身長185センチで体重がおよそ100キロだ。だがテレビで見ていると、自分よりも多きな外国人選手を相手にすることが多い武蔵選手が小さく見えてしまう。でも、僕は格闘技の取材の経験も何度かあるのだが、実際に間近で武蔵選手を見るとでかいのだ。だから、この武蔵選手よりも体格に勝る外国人選手というのはどれくらいのパワーなのか、圧力なのか、僕には想像がつかなかった。

 ただし、格闘技ではないけれども外国人のパワーと圧力をまったく味わったことがないということもない。僕は留学していたアメリカではほぼ毎日のようにバスケットボールをしていた。そのときは僕よりもはるかにでかい(ゴリラみたいなアメリカ人、朝からコーラを2本飲むようなやつらばかりだった)とプレーしていたが、ゲームの中の押し合いへし合いのなかで彼らの力の強さというのを多かれ少なかれ感じてはいた。そのとき僕は、力の強さではこりゃかなわんわ、と思ったのである。

 でも、力が強いから戦いに強いというわけでもない。一度、球技大会でバスケに出場した僕は、マッチアップした外人がめちゃめちゃでかくてたじろいだ。しかもそいつがダーティな選手で、必要以上に僕に体を押し付けてくる。ときにはヒジを使って僕を押すのである。この野郎、アジア蔑視か、と怒りがだんだんとわいてきた。

KAZMANIAN DEVIL'S WBC 取材日記
 でもパワーでは当然かなわない。押されて押し返そうとしても、無理なのである。だったらこうすればいいか——。僕は押し返す代わりに体を引いてみた。するとこのデカ外人は後ろに倒れたのである。ニヤッ。僕はこのとき自身を得た。たいしたことないな、こいつ。調子に乗った僕は、この「すかし技」の次は、相手の腿の裏に審判に見えないようにヒザ蹴りを何発もたたきこんだ。そのアメリカ人は白人だったため、その豚のように白い太ももは徐々に赤みを増していった。

 あとは、スピードも重要だ。同じく球技大会のバスケで、コート中央でボールを受け取った僕は一気にリングへ向けペネトレイトした。僕の前にはこれまたドデカイ黒人が立ちはだかったが、僕はすでに速度に乗っていた。正面からぶつかったものの、倒れたのはその黒人のほうだった。しかも、彼は失神してしまったのだ。さすがにこのときは悪いことをしたなと思ったが、相手に弱気になるところを見せてはいかんという侍スピリットを思い出し、僕はすぐにディフェンスに戻った。ちなみにこのプレー、僕はオフェンスチャージングをとられた。

 まあこれ以上アメリカ留学時代の武勇伝を語っても、落合信彦みたいになってしまうので、このへんでやめておこう。

 留学が終わり、日本に帰ってくると当然ながらまわりは日本人だらけ。バスケももうほとんどしなくなっていたので、外国人のパワーというものを忘れかけていた。

 と、そんなときに食らったブライアントコーチのタックルだ。ブライアントコーチの息子は、バスケファンなら言うまでもないが、NBAロサンゼルス・レイカーズのスター、コービーである。コービーは198センチ、約100キロという体。しかし父親はそれよりもでかい205センチだ。体重は今はよくわからないが、110キロはあるだろう。

 一方の僕は、現在の体重は大体61キロだ。身長は、自分の小ささをわざわざ公表したくもないので、現在NBAで最も身長の低いデンバー・ナゲッツのアール・ボイキインスと同じくらいだと言っておこう。

 そうすると、ブライアントコーチと僕の体重差は約50キロになる。これはもう殺人的な差だ。ブライアントコーチは51歳だが、この体重差があれば、力の強さに関してはもうどうしても彼に軍配が上がってしまう。

 ブライアントコーチが僕にタックルを仕掛けてきたせつな、僕はミルコ・クロコップばりにタックルを切ろうとした。しかし、50キロも重いブライアントコーチの巨体から繰り出されたタックルを僕は切ることができなかった。そして、泣く泣くソファーに倒されてしまったのだ。勝ち誇ったようにブライアントコーチは、ガハハハと笑い声をたてながら会見に臨んでいった……。

 スポーツも「体重」という観点で見てみると面白いかもしれない。単純に体重の差がパワーの差につながるからである。たとえば、4月16日のフリオ・ズレータ(福岡ソフトバンクホークス)の、金村暁(北海道日本ハムファイターズ)投手への暴行事件の際、金村はズレータに抵抗することなく殴られてしまったが、ズレータは身長197センチ、体重113キロもある巨漢選手。金村は187センチと上背はあるものの、体重は82キロ(データは両チームのHPを参照)しかない。つまり両者の体重さはおよそ50キロにも及ぶのだ。これでは金村が抗しようと試みても無理だったであろう。

 まあそれはともかく、記念すべきbjリーグの初年度は、僕にとってはブライアントコーチのタックルで終わった。というのは冗談だけど、プレーオフの2日間は有明に数多くのファンを訪れた。bjはJリーグのように地域密着を目指していて、プレーオフに進出する仙台、大阪、新潟からも熱心なブースター(bjではファンのことをこう呼ぶ)がはるばる応援に駆けつけた。最終日には約7600人の観客動員数を記録したが、カラフルなユニフォームやTシャツをまとった人々に埋められたアリーナを見て、このリーグの将来への光というものを見た気がした。

 そう思うと、残念ながら決勝戦進出を逃しはしたが、"ちょい悪オヤジ"ブライアントコーチが満足げに僕にタックルという喜びの表現をしかけてきた訳も分からなくはない。

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