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カズの取材日記

By Kaz Nagatsuka / 永塚 和志

スポーツ記者、永塚和志が取材を通じて遭遇した様々な出来事・人々について語るエッセイです。
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Vol. 10 : Kazmanian Devil's 取材日記

 「なんなんだよぉぉぉ」
 思わず、情けない声でそう叫んだ。

 僕は一人、テレビでスポーツ中継を見ながら、あれやこれやと言うタイプだ。「よっしゃ!」とか「すげー」とか、あるいは「ちゃんとやれや」とか「なめとんか」といったようなことをのたまっている。

 現在行なわれているドイツのW杯、12日の日本対オーストラリア戦を、僕は家のテレビで観戦していた。日本は-ご存じの通り-試合残り6分(ロスタイムを入れても10分)を切ってから立て続けに3点を許し、敗れた。

 試合をほぼ手中にしたと思ってからの逆転負けは、国民を奈落の底に落とすかのような衝撃を与えた。僕もまったく同じだった。本当は、この試合の後すぐに書かねばならない原稿があったのだが、失望のあまりまったくといっていいほど筆が進まなかった。曲がりなりにもプロとしてライターをやっている以上、こういうことはいけないのだけれど…。

 翌日、敗戦のショックから立ち直らない僕は、重たい体にむちを打ってジャパンタイムズに出社した。英字新聞だからアメリカ人の記者、エディターも多くいる。この日は日本戦に続いてアメリカ対チェコの試合もあったのだが、アメリカもチェコの前になにもできず、3-0で負けた。日本もアメリカも、無残に負けたため、この日のオフィスの空気は鉛のように重たく、口を開いても皆ボソボソと話すだけだった。

 仕事がひと段落ついて、どこということもなく宙を見ていると、スポーツ部に電話がかかってきた。オーストラリアのメルボルンからだった。聞くところによるとそれはラジオ局からで、英語のできる日本人ジャーナリストに生放送の番組にちょっとだけ出てほしいという要望だった。前日の日本対オーストラリア戦後の日本国内の反応について聞きたいとのことだった。

 その日、スポーツ部には日本人は僕しかいなかった。こちらのどんよりとした雰囲気も知らずに、その電話をかけてきたオーストラリア人のディレクターだかなんだかは必要以上に陽気に、そして早口に、僕に番組に出てほしいと頼んできた。

"OK, I'll do it, man."
(やったろうやんけ、ワレ)

 と僕は彼に伝えた。
 するとオーストラリア人は

"Thank you so much. I'll call you back in 10 minutes."

 とかなんとか言いながら、急いで電話を切った。

 10分後、電話がかかってきた。いよいよ僕の美声をメルボルン市民に聞かせる時が来た。先ほどは、ディレクターらしき男氏は僕のファーストネームだけを聞いたが、今度はサーネーム(ラストネーム)を聞いてきた。「ナガァツカ」と、「ガ」のところにアクセントを置いたねばっこい発音で、僕は言った。本当はこんな発音なんかじゃないのに、と心の中で思いつつ。

 そしてディレクターらしき男氏は、僕の苗字を聞くなり、「じゃあスタジオのDJとつなぐから」と言って、僕が「わかった」と返事をする間もなく、電話の向こうでDJ氏が話している声が聞こえてきた。もうすでに番組が始まっているようである。

 何がなんだか分からなかったが、すぐにDJ氏は僕のことを紹介しだした。

 「昨日は、われわれオーストラリア人にとっては最高の試合だったけど、一方で負けた日本ではどんな反応だったのかな、ベイビー」みたいなイントロダクションに続いて、DJ氏は「それではJapan Timesのsports writer、Kaz Nagatsukaと電話がつながってるからそのあたりを聞いてみようか」というラジオDJにありがちな、軽い感じのゲスト紹介をした。

 DJ氏は、さっきのディレクターらしき男氏よりもさらに陽気に僕に話しかけてきた。よく考えれば当たり前のことなのかもしれない。オーストラリアの立場からすれば、ほぼ負けを覚悟したであろう状況からの大逆転勝利である。1-1と同点に追いつくだけならまだ不思議はない。しかしそこからさらに2点入れたのだから、もう最高だろう。しかもオーストラリアのW杯出場は32年ぶりで、これまでにW杯でゴールを入れたことがないというのだから、喜びもひとしおだ。

"So Kaz, how is the reaction in Japan today?"
(それでカズ、今日の日本ではどんな反応だったんだい?)

 バリバリのオージー・イングリッシュで、DJ氏は僕に尋ねてきた。

 どうだったもなにも、落ち込んでるに決まってるだろバカヤロウ、と言ってやりたい衝動にかられながら、それをなんとか抑え、僕は次のような至極まともな答えをした。

"Well, man, everybody's mourning today. We're very upset by the way Japan lost to the Aussies, giving up three goals late in the game."
(今日はもう、みんなうなだれてるよ。試合の最後に3点も取られて負けたっていうことにショックを受けてるね)

 その後の質問もくだらなかったので、あえてもう書かない。かなり要約して言えば、「日本は最後の最後で逆転されちゃったね、かわいそうだね、うんうん(ざまあみろ)」というような問いばかりだったのだ。

 電話インタビューは5分もなかったと思うが、僕には永遠に感じられた。拷問に近いものがあったと言えるくらい。

 最後に僕は、

"Good luck on the Australian team."
(オーストラリアチームにもいい大会でありますように)

 という言葉をDJ氏とリスナーに投げかけ、出番を終えた。これでメルボルンでの好感度は上がったろうか。

 いずれにしても、日本人を代表して話したこの日の僕も、ある意味「日本代表」だった。暖色のシャツを着ていたが"Boy(s) in Blue"だったのだ。

"Thank you very much, Kaz!"
(恩にきるぜ、カズ!)

 インタビュー終了後、ディレクターらしき男氏は、さわやかにそう言って電話を切った。電話だから姿は当然見えないが、おそらく金髪で、身の丈176センチ、体重70キロ、目の色は薄いブラウンで、サマーセーターが良く似合って、休みの日には水上スキーなんかを嗜む30歳くらいの独身の男なのだろう。

 そのさわやかな南半球からの声で、爽快なオージー野郎の笑顔が目に浮かんだが、かたやこちら北半球の島国では黒髪の短足野郎がため息ばかりついているわけだ。

 そのコントラストをひとり頭のなかで妄想して、僕はしばし、どこか違う次元にいるような感覚に陥ったが、すぐに前夜に日本が負けたという現実に引き戻された。

 出るのはやはり、ため息ばかりであった…。

P.S. そういえば、5月の上旬にも外国からW杯に関してのインタビューを受けた。

 それはスウェーデンのサッカー雑誌で「Footbol Guiden」という名前だそうだ。W杯出場全32カ国のメディアに大会の予想をしてもらっているとのことだった。日本は僕が代表ということだ。

 質問は5つあって、まず最初が優勝国と、2位、3位のチームの予想。僕は正直、スポーツの予想ほどくだらないものはないと思っている。

 どの競技でも、その日の選手のコンディションやケガ人の数で勝敗は大きく左右されるからだ。ましてW杯は決勝トーナメントでは負けたらその時点で終わりだ。たまたまその日に調子の良くない選手がいたり、ケガで欠場した選手がいたとしても、負けは負け。

 これがまだ、野球のペナントレースや、アメリカのスポーツのプレーオフのようなものなら、予想もいいかもしれない。強いチームはある程度長いスパンで見ればやはり勝つ確立は高くなるからだ。

 といいつつ、僕は今回のW杯の優勝国にホスト国のドイツをあげた。2位はアルゼンチン、3位はブラジル。続いて、日本はどこまで行くか、という問いには、僕は日本は厳しいクループにいるので残念ながらグループリーグ敗退という予想をした。オーストラリア戦で負けたことによって、本当にそうなりそうな感じだ…。

 3つ目は、スウェーデンはどこまで行くと思うかという質問。僕は、ベスト8と答えた。

 4つ目は、4つ目は…あ、なんだったか忘れてしまった。

 最後の質問は、得点王は誰になるかというもの。これもノーアイディアだったのだが、ドイツのFWクローゼにしておいた。

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