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カズの取材日記

By Kaz Nagatsuka / 永塚 和志

スポーツ記者、永塚和志が取材を通じて遭遇した様々な出来事・人々について語るエッセイです。
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Vol. 12 : Kazmanian Devil's 取材日記

 JR御茶ノ水駅から東京医科歯科大の脇の小さな路地を抜け、本郷通りを渡ってこれまた細い道を少し入ると、まだ壁には汚れらしい汚れもついていないきれいな建物がそこにはある。

 この国のサッカーの総本山、日本サッカー協会だ。

 6月26日、日本代表監督のジーコはその場所へ自らハンドルを握ったシルバーの乗用車でやってきた。同職からの退任会見を行なうためである。

 僕は会見の始まる約10分前に到着したが、そのときにはもう多くの報道陣が席を占めていた。部屋の最後方と右側には各局のテレビカメラが隙間なく並んでいた。ざっと見積もって、報道陣の数は少なくとも150人はいただろう。

 会見開始予定の4時を少し回って、ジーコ監督と日本サッカー協会の川淵三郎キャプテンが登壇した。W杯での日本代表の成績を受け、2人とも神妙な面持ちだった。

 川淵キャプテンの言葉のあと、独特の甲高い声でジーコは話し始めた。眉間にはしわが寄っている。

 ジーコは、約90分近く話しを続けた。もちろん彼が話した後には通訳が入るから、実質はその半分なのかもしれない。しかしいずれにしても、延々と熱弁をふるった。いや、「熱弁をふるった」というのは少し違うかもしれない。言葉の数こそ多かったものの、ジーコの発言には熱が感じられなかったし、それを聞くわれわれ報道陣もどこか冷めた態度でそれを受け止めていたからだ。

 ここでジーコのコメントの内容を逐一書くつもりはない。というよりも、記すに値しないと思うからだ。

 サッカー1試合分に相当するほどの長い時間にわたって話しながら、この日、ジーコが言ったことはたった一つである——それは、「日本の選手はもっとフィジカル的に強くならなければならない。さもなくば、次のW杯アジア予選に加わってくるオーストラリア(これまではオセアニア地区で戦ってきた)や、急成長を見せている中国などを打ち破って本戦に進むのは難しい」ということである。

 ジーコはそれを、言葉を変えて何度も何度も繰り返した。もちろん、それ自体は正論である。日本の選手が身体的に劣っていたのは、W杯でのオーストラリア、クロアチア、ブラジルとの試合で目にしたばかりだ。

 しかし、4年もの間代表監督を務めておきながら導いた答えが「フィジカルが弱い」だけでは、あまりに寂しいではないか。われわれは、本当はなぜ日本代表は1次リーグで敗退したのか、なぜ1試合も勝てなかったのかを技術的な観点から知りたかった。フィジカルが弱かったのはW杯前から、ずっと前から分かっていたこと。もしそれが今回の大会で敗れた原因だとすれば、日本代表はハナから1次リーグで敗退することになっていた。ジーコの「言い分」を聞いているとそう言われても仕方がないのではないかと思えた。

 一人の記者は実際、「日本の選手のフィジカルが弱いのは前からわかっていたことなのに、それに対して何も対策を講じてこなかったのか」と鋭い質問をジーコにぶつけたが、彼は「この4年間日本代表を見てきた方なら(日本代表の変化は)お分かりになるはず」と訳の分からない答えをした。日本サッカー協会と代表チームがフィジカル強化に努めてきたのか否か、これでは分からない。こんな回答では、ジーコは「答えに窮した」と言われても仕方あるまい。

 予想以上に長くなったジーコの退任会見は結局、何のために開かれたのかすら疑問に思われるほど内容の薄いものとなった。

 行きと同じく帰りも自らハンドルを握って、静かな本郷の日本サッカー協会をあとにしたジーコ。どんな心境でその日は家路についたのか…そんなことははっきり言って知ったことではない。

 われわれの気持ちはすでに次の代表監督に向いている。本稿執筆時点ではまだ正式発表はされてないが、どうやらJEFユナイテッド千葉のイビチャ・オシム監督になりそうだ。

 代表監督の仕事が難しいものだということは理解できる。現役時代は「神様」と呼ばれたジーコでさえ、うまくこなすことはできなかった。

 オシムはジーコと違って経験があるし、実際90年のW杯ではユーゴスラビアを8強に導いたという実績もある。その意味では信頼のおける監督と言えそうだ。また発言や有名な「オシム語録」を見ていると、より論理的であるというところも伺える。03年以来、日本のクラブで監督を務めているということもあり、適任であるのは間違いない。

 ただ、予断だけはやめておこうと思う。筆者に限って言えば、トルシエのときもジーコのときも、就任前は彼らの良いところを刷り込まれ、大きな期待を持ったのに、最後は2人とも、必ずしも「ハッピーエンド」で任を終えたわけではなかったからだ。

 毎回W杯のころといえば日本は梅雨の時期でスカっとしない日々が続くが、今回ならば遠くドイツにまで行ってスカっとしない闘いをする必要はどこにもない。

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