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カズの取材日記

By Kaz Nagatsuka / 永塚 和志

スポーツ記者、永塚和志が取材を通じて遭遇した様々な出来事・人々について語るエッセイです。
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Vol. 14 : Kazmanian Devil's 取材日記

 スポーツメディアに関わっているとよく、「うらやましいですね」とか、「すごいですね」などと、せん望を含んだ目を向けられる。

 おそらく、この仕事をしていてそう言われたことのある者は多いのではないだろうか。そしてそんなとき、ちょっとした優越感に浸ることもあるのではないだろうか。

 しかし、もしかしたら、そうした経験がスポーツメディアに関わる者たちをどこか勘違いさせるのかもしれない。

 そのことを考えていると、少々古い話で申し訳ないが、2003年2月、青森で行なわれた冬季アジア大会のことを思い出す。

 この大会の運営は青森のボランティアの方々によってなされ、「手作り感」が特徴の国際イベントだった。

 もちろんボランティアは、普段はスポーツや、あるいはイベントの運営などに関わっていない人たちばかりだろうから、すべてがスムーズに行くというわけにはいかない。例えば、僕が会場で何か分からないことがあって、彼らに尋ねてみても、すぐに的確な対応をしてくれるというわけではない。

 これが普段からこういうイベントや興行に携わっている人なら、テキパキと対応をしてくれることだろう。

 だが、たとえ仕事は決してスムーズではないとしても、一生懸命、選手や観客、そしてわれわれメディア陣に対応してくれるボランティアの人たちに、僕はある種の新鮮さを感じると同時に、好感を持って見ていた。

 しかし、そんな僕の温まった気持ちに冷や水をかける出来事があった。

 この冬季アジア大会の大きな「目玉」のひとつは、北朝鮮選手団の参加だった。日本や韓国、中国などに比べて参加競技と選手の数は少ないものの、それでもちょうど日本と北朝鮮の政治的緊張が高まっていたときだったため、多くの人々が注目していた。

 そのなかでも最も関心を集めたのが、八戸市で行なわれた韓国対北朝鮮の女子アイスホッケーの試合だった。韓国チームには、97年に北朝鮮から亡命、いわゆる「脱北」した皇甫永(ファンボ・ヨン)という選手が参加していたからだ。

 試合は、10−1と北朝鮮の圧勝だったが、乱闘などもなくきわめて通常に行なわれた。ただ、試合直後、両チームが握手を交わすときに、北朝鮮の選手が皇選手とだけ握手を拒否する場面は、強烈に印象に残っている。

 この試合には、当然のことながら、多くの報道陣もつめかけた。会見場にはより良いスポット(会見場といってもアリーナの廊下を仕切った程度のものだったが)を求めて、選手たちが現れる前に激しく場所取り合戦を繰り広げていた。

 ところが、韓国の選手と韓国の会見が終わって、次は北朝鮮の選手1名とコーチが来る予定になっていたのだが、彼らが来られないことになってしまった。そのことは、会場を仕切っていたボランティアの男性の口から、申し訳なさそうに説明された。

 すると、報道陣の一人がその男性に向かってこう言ったのである。

 「『来られなくなった』じゃないんだよ。連れてくるのがあんたの仕事だろ!」

 この試合は夜の7時半から開始されたので、終わったのも9時をとうに回っていた。となると、新聞社もテレビ局も、締め切りまでさほど時間がない。彼らは当然、北朝鮮選手やコーチのコメントをそれぞれの原稿や映像に入れるはずであった。

 それだけに、彼が言ったことは正論ではある。

 しかし、ものには言い方というものがあるだろう。ボランティアで、つまり、お金を得るわけでもないのに自ら進み出て仕事をしてくれている人に向かって言うべきトーンではなかったと、僕は思った。

 僕にだって書くべき原稿はあったし、締め切り時間は刻一刻と迫っていた。でも、ボランティアの人を怒鳴りつけて、嫌な思いをさせてまで原稿を仕上げようとは、正直、思えない。

 いい原稿を書いてこそ本当のプロだというなら、僕はプロではないのかもしれない。しかし、相手がボランティアの人だということも忘れて(あるいは忘れてなかったかもしれないが)、暴言を吐くような者だって本当のプロではないと思う。

 結局、説得された北朝鮮選手1名とコーチは会見場に渋々表れて、事なきを得たのだが、僕のなかではどこか後味の悪い一日となった。

 この青森のことは、僕がこれまで見てきたメディアのふそんだと思われる部分の一例である。全員を十把ひとからげで語るのは危険だが、メディアにはそういう者が多いような気がしてならない。

 青森の例で言えば、そのボランティアの男性は、普段はスポーツイベントには関わることのない、一般の人だろう。その人がどれだけスポーツを好きかは分からないが、もしかしたら、日ごろわれわれスポーツメディアの情報を心待ちにしていてくれている人かもしれないではないか。

 そう考えれば、彼をぞんざいに扱うことなどできないはずだ。そういう感覚がないのならば、スポーツだけでなく、メディアの仕事に関わらないほうがいいと思うのだが、はたして僕は甘いことを言っているのだろうか。

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