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カズの取材日記

By Kaz Nagatsuka / 永塚 和志

スポーツ記者、永塚和志が取材を通じて遭遇した様々な出来事・人々について語るエッセイです。
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Vol. 15 : Kazmanian Devil's 取材日記

 今たとえば、「バスケットボールの世界選手権」と口にしたとして、「ああ、来月日本でやるやつ?」と答えてくれる人はどれだけいるのだろうか。

 世界最大のスポーツの祭典であるサッカーのW杯の直後だけにインパクトは正直、薄い。それに、現時点で日本のバスケの実力が世界的に見ればけっして高くないという事実もあって、「日本人にはバスケは無理」というあきらめにも近い空気がまん延しているというのもある。実際、今回、日本代表は本拠地開催ということで出場するが、実力から言えば本来ならば世界選手権に出ることができない位置にいるのだ。

 しかし、それにしても宣伝が足りなすぎはしないだろうか?

 1月、品川でこのバスケ世界選手権のグループ抽選会があり、僕は取材をした。今大会では、北から札幌(グループD)、仙台(同A)、浜松(同C)、広島(同B)の4都市でグループリーグが行なわれ、各グループ6チームのうち上位4チームずつが、さいたまスーパーアリーナのファイナルラウンドに進出する。

KAZMANIAN DEVIL'S WBC 取材日記
 だが、この抽選をするために壇上に上がるゲストが、なんというか……良くない。アフリカやヨーロッパ、そして日本の元選手などだ。率直に言って、誰も知らないのである。

 ここではあえて、誰がそのクジを引いた面々だったかを言うことはしないが、しかしなぜ、元NBAの有名な選手などを呼んで注目を喚起しないのだろうか。

 現在のバスケでは、ヨーロッパや南米の国々が実力を伸ばしてきているとはいいながらも、少なくとも日本の一般の人々にとってはバスケは依然としてアメリカのもの、もっと言えば「バスケ=NBA」というところがある。だったらなぜ、地元開催のバスケ世界選手権を広める絶好の機会に元NBAの選手などを使わないのだろうか。

 本当に、不思議でしょうがない。

 しかし一方で、僕が足りないと感じる世界バスケへの注目度も、日本代表の選手のなかにはもう十分すぎると感じている者もいるようだ。

 今月22日に、キリンカップ2006の日本対イランの第3戦を取材しに、代々木第2体育館まで行ってきた。

 1勝1敗で迎えたシリーズ最終戦、日本はディフェンスの頑張りで、72―62の勝利を収めた。

 ただし、日本の中核をなすとされるポイントガードの五十嵐圭選手(日立)や、双子の兄弟揃って代表入りをしているフォワードの竹内穣次選手(東海大)が気がかりだった。五十嵐選手は、先発出場したが、ほとんど活躍できず、1Q以降はほとんどプレイタイムを得られなかったし、竹内穣選手にいたっては1秒もコートに立つことはなかった。

 2選手ともケガでもしているのかと思いきや、ヘッドコーチのジェリコ・パブリセビッチによれば、彼らが「今までにないほどの注目を浴びていて重圧を受けているから」というのが不調の原因らしい。

KAZMANIAN DEVIL'S WBC 取材日記
 たしかに、2人とも非常におとなしい選手である。僕は5月に東京の代表合宿を取材し、五十嵐選手にはインタビューもさせてもらったが、気付いたのが、物腰が柔らかく、日本の代表として、しかもPGという司令塔のポジションを担うにはあまりにソフトすぎないかということだった。五十嵐選手はその端正な外見で、女性にも人気があり、今では日本代表の選手では最もメディアへの露出が多くなっている。オトコギ溢れるこの僕でも、ちょっとクラっとくるほどの甘いマスクなのである。

 竹内穣選手も、京都の洛南高校時代から兄弟揃ってその名をとどろかせてきただけに、プレッシャーなど関係ないのかと思っていたが、その恵まれた身長(205センチ)に比例するほどの心臓はまだ持っていないようだ。

 プレッシャー、重圧、緊張。22日の試合には、イランという世界選手権には出場しないチームが相手にも関わらず、報道陣の数は確かに多かった。しかし、これがバスケ世界選手権の一般の人々への浸透度を示しているかといえば、そうではないだろう。 世界選手権のグループDは、前述のとおり札幌である。札幌には僕の実家があり、幸運にもこのグループを取材することになっている。という旨を、札幌の母親に告げると、「バスケ世界選手権? なにそれ。そんなのがあるの?」というにべもない反応が返ってきた。だが、母親のこのセリフが一般の人々の認識を表しているのではないだろうか。

 日本で開催が決定した直後の2000年ころから、決勝ラウンドが行なわれる埼玉県などでは一般道の歩道橋などに、「2006年バスケットボール世界選手権開催」などと書かれた幕がかけられていたが、それから6年ほどの間にどれだけ人々がこの大会の存在を知るにいたったか。

 あり余るほどの時間があったわりには、その宣伝の効果はあまり出ていないように思える。

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