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カズの取材日記

By Kaz Nagatsuka / 永塚 和志

スポーツ記者、永塚和志が取材を通じて遭遇した様々な出来事・人々について語るエッセイです。
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Vol. 16 : Kazmanian Devil's 取材日記

 「W杯、頑張ってPRしてね」

 その人の何気ない言葉が重圧になったとまではいかないが、たしかに積極的に宣伝でもしないと世の中に広まらないような気がするので、ここでも少し記してみることにした。

 W杯といったら十中八九、いや、"十中十"、サッカーのW杯が連想されるだろう。ではサッカーのW杯のPRをする必要があるか否や? ない。まったく、ない。黙っていても皆、見る。見るなと言っても見るくらいだ。

 僕の言うW杯は来年川崎で開催されるアメリカンフットボールのW杯だ。 はいでは、今日ここに来ているお客さんで、日本でアメフトのW杯があるって知ってる方、挙手お願いします。あ、はい、もういいです、ほとんどいないですね。

 こんな感じだろう。

KAZMANIAN DEVIL'S WBC 取材日記
 たしかに、アメフトは日本ではマイナーなスポーツの類に属すると言える。でも、一度見てみればこんなに面白いスポーツもなかなかない。

 日本語の「試合」は、英語ではgame、あるいはmatchである。試し合い、と書いて試合。どこか日本特有の、精神の強さを試す場という感が出ている。そう考えると、gameとmatchではmatchのほうが日本語の「試合」を指す言葉に近い気がする。 しかしアメリカのスポーツでは試合をmatchと呼ぶことはそう多くない。ほとんどの場合がgameだ。ゲーム、つまりスポーツとは楽しむものですよ、ということである。

 アメリカで生まれたアメフトの試合も、当然gameだ。アメフトでは選手の役割が分担されており、その手駒を駆使してボールを投げたり、持って走ったりして敵陣へ進んでいく、そんなスポーツだ。正直、一言でアメフトを説明するのは難しいが、よく比ゆとして用いられるのがアメフトはチェスのよう、というものだ。

 それぞれのポジションで選手がどのように発揮し、そしてそれがチームの戦略にどう作用するかを考えながらボールを進めていく、あるいはディフェンスではそれをいかに読み、止めるか。アメフトはまさにチェスのようなgameなのだ。そのチェスの盤を観客席から見るのは楽しいものである。

KAZMANIAN DEVIL'S WBC 取材日記
 7月29日、30日と川崎球場で行なわれた「NFLアメリカンフットボール・フェスティバル」の取材に行ってきた。メーンは8月22日から26日にかけてドイツのケルンで開かれるフラッグフットボール世界大会の日本代表を決めるトーナメントだったが、この両日は、それ以外にもさまざまな催しものがあった。

 冒頭の言葉は、「NFLエクスペリエンス」というアメフトの疑似体験ができるテーマパークのようなセクションでインタビューをした男性に言われた言葉だ。

 男性は、背はさほど高くはないが体格ががっしりしていたので聞いてみると、案の定、以前は社会人チームなどでアメフトをプレーしていたそうだ。ポジションはランニングバック(RB)だったという。RBはオフェンスの花形ポジションのひとつだ。

 男性はこの日妻と息子を連れてきた。日本の社会人アメフトリーグ、Xリーグの試合にもよく足を運ぶそうだ。

 息子の佑樹君(6)は幼稚園の年長とのことだったが、元NFL・ダラス・カウボーイズのスターRB、エミット・スミスのユニフォームを着てNFLエクスペリエンスのアトラクションを笑顔で堪能していた。

KAZMANIAN DEVIL'S WBC 取材日記
 それを見ていて、僕はてっきりこの佑樹君もアメフトのファンなのかと思ったら、実はそうではなかった。僕が「祐樹君、アメフト好き?」と聞くと、恥ずかしがってなかなか答えてくれない。「佑樹、ちゃんとお兄さんの顔を見て答えなさい」とお母さんが言ってくれたが、今思えば、その「お兄さん」の顔がいかつかったから答えにくかったのかもしれない。

 「Kazmanian Devil」というニックネームというか愛称がこのコラムのタイトルにもなっているため、その「Devil」的なイメージを構築すべく、筆者はその数日前に頭髪を角刈り風にしてみたのだ。それがよくなかったのかもしれない。ひげもボウボウだった。

 と、余談はこれくらいにして、佑樹君は実は幼稚園ではサッカーをやっているというのだ。アメフトはどちらかと言うとお父さんの趣味だった。

 「この子、まだあんまりよく分かってないと思うんです」と、モジモジした祐樹君に代わって、お母さんが言った。まあたしかにそうだ。まだ小さいからアメフトがなんたるかは分からなくて当然だ。

KAZMANIAN DEVIL'S WBC 取材日記
 そこで僕は、「もしもう少し大きくなったら、アメフトやらせてみたいですか?」とお母さんに聞いてみた。そうしたら、「そうですねえ、でも、怖いけど」と息子の身を案じるごく普通の母親の反応が返ってきた。

 でもお父さんは違った。「いや、鍛えれば大丈夫だよ!」と、自慢の胸筋を多少パンプアップさせながら、妻に向かって言った。これが後々、夫婦喧嘩の火種になっては困ると思った僕は、すかさず、「でも、本人がやりたいって言えばやらせてもいいですよね?」と言って、その場を収拾させた。

 とはいいつつ、僕はこの取材で集めたものをジャパンタイムズ本紙にも載せようと思っていて、その内容を、来年は日本でアメフトW杯があって、人気の上がっている日本のアメフトに拍車をかける、というものにしたかったから、ぜひ「アメフト大好き!」というセリフを取りたかったのだ。

 僕は意を決して、今一度、「祐樹君、アメフト好きかなあ?」と普段使ったこともないような猫なで声で訊ねた。しかし、はにかみ屋の祐樹君から僕の期待する答えはついぞ聞かれなかった。

KAZMANIAN DEVIL'S WBC 取材日記
 正直、お父さんが半ば強制的に「アメフト、好き」と言わせてくれないかな、と期待していたが、そうそううまくはいかないものである。

 ほかの子供たちにも話を聞いた。このイベントに来ているくらいだから、少なくともアメフトが嫌いなわけはない。だけど、「アメフトをずっとやって、将来はプロになりたい!」といった言葉は取れなかった。子どもは子どもながらに、アメフトで成功するのは難しいと分かっているのかもしれない。

 たしかに、アニメ「アイシールド21」の人気なども手伝って、アメフトに興味を持つ子どもは増えたが、かといって競技人口が爆発的に伸びたかといえばそうでもないだろう。

 これから日本でアメフトがもっとメジャーになってもらえるようPRすることは、僕にとってはやぶさかではないが、ほかの人ももっと積極的に活動してほしいと思う。

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