僕個人にとって最も大きなスポーツイベントであるスーパーボウルが終わりました。あとはプロボウルと呼ばれるオールスター戦を残すだけで、今年度のNFLのシーズンが幕を下ろします。
NFLのシーズンは9月から2月中旬までの半年未満。MLBやNBAに比べれば期間が短く、試合も各チーム週に1回しか行なわないので、終わってみればあっという間だったと毎年思います。それでも、毎日のように練習や試合に追われる選手たちはもちろん、取材する側の僕たちメディアにとっても1つのスポーツシーズンは長い道のりなのです。
なぜこんな話をするかというと、今週取り上げるdown the stretchにピッタリと当てはまる訳語が思い当たらないからです。down the stretchとは、「ある物事の期間・過程」をあらわすイディオムなのですが、同様な意味を持つperiodやtermよりも「長い道のりを進んでいく」というニュアンスが含まれているのです。
この言葉の語源を説明すれば、このイディオムの意味がわかるでしょう。ここで言うstretchとは競馬のレースコースで直線になっている部分のことです。馬が最高のスピードを出すために足を伸ばして走ることから、「伸ばす」という意味のstretchが直線コースを指すようになりました。
だ円形のコーナーを曲がりきった後には長距離の直線コースが続きます。この直線こ競走馬とジョッキーがレースの命運をかける場所。競馬で最も盛り上がる場面であり、馬やジョッキーにとっては一番重要で、かつ、苦しいところでもあります。このコースを走る過程がdown the stretchなのです。
次のような例文を考えてみましょう。
The Packers struggled to have a 2-4 start early in the season, but they improved down the stretch to finish 10-6.
「パッカーズ(NFLのチームです)は、シーズン当初は2勝4敗の苦しいスタートとなったが、その後、持ち直して10勝6敗でシーズンを終えた」という意味です。
ここで注目して欲しいのは、日本語訳の中にdown the stretchにあたる訳語がないことです。上の英文からdown the stretchを削除しても、日本語訳は全く同じになります。でも、原文の英語が伝えるニュアンスに微妙な違いが生じるのです。
down the stretchが入ったほうが、「NFLの厳しいシーズンの戦いの中で」という意味合いが生まれ、その結果、「最初は2勝4敗だったパッカーズだったが、厳しい戦いの中でその後は8勝2敗という高勝率をあげて、最終的に10勝6敗でシーズンを終えるほどまでにチームを立て直すことに成功した」という内容が読者に伝わるのです。
日本語訳には表れないけれども、ニュアンスを伝える役割を持つ単語やイディオムというのはほかにもたくさんあります。これをマスターして自在にこなせるようになるのは大変なこと。でも、たくさん英文を読んでいるうちに、そのニュアンスをくみ取れるようになれば十分だと僕は思います。
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