スポーツ英語には「対戦する」を意味する用語がたくさんあります。Play(プレーをする)、 fight(戦う)、 compete(競争する)などはおなじみですね。これ以外にもtake on、square offなどというイディオムもあります。
英文では同じ言い回しを避けるために、同じ意味でもいくつかの違った単語を使い分けることが求められます。ジャパンタイムズのような新聞では、同じ紙面にいくつもplayやfightばかり使うとつまらないものになってしまいます。そこでtake onなどのバリエーションを使うのです。
さて、今回の言葉はface off。語源はアイスホッケーです。アイスホッケーはパックと呼ばれる円柱形の試合球をスティックで操り、相手側のゴールに入れて点数を競うスポーツです。審判がスティックを構える二人の選手の中央にパックを落とし、それを選手が取り合うところからゲームが始まります。このゲーム開始の合図をアイスホッケーでは"face-off"と言うのです。野球で言うplay ball、サッカーやアメリカンフットボールのkickoffと同じです。
face-offの瞬間、ホッケーの選手はまさにface to face、顔をつき合わせてパックが落ちるのを待ちます。このことから、face off(ハイフンをつけると名詞、とると動詞となります)とは対戦することを意味するイディオムとして使われます。
では、前に述べたplayやtake onとはどのような違いがあるのでしょうか。
「対戦する」という基本的な意味は同じです。ただし、言葉からうかがえるニュアンスはおのずと変わってきます。
アイスホッケーを見たことがある人は、パックが落ちるのを待つ瞬間の選手の姿を思い浮かべてください。審判がパックを持っている間、選手は微動だにしませんが、パックが氷上に落ちた瞬間には素早く動けるように身構えています。ここにホッケーファンを魅了して止まない緊張感があるのです。
ボクシングやプロレスで試合前に選手たちが額を押し付けた形でにらみ合うシーンがよくありますね。これぞface offなのです。
つまり、face offにはplayやtake onなどに比べると「一触即発の緊張感」というニュアンスが強いイディオムなのです。もちろん、チーム同士の対戦にも使われる言葉ですが、「顔を突き合せる」という元の意味から「1対1」の意味合いが強くなります。
例文を見てみましょう。
A faces off against AIDS epidemic. (Aは架空の国名)
という文があるとします。直訳すれば「A国がまん延するエイズ問題と対決する」ですが、A国の政策を「対決する」ではおかしいので「真剣に取り組む姿勢を打ち出す」とでもしましょう。
気を付けたいのは、offがなければ「まん延するエイズ問題に直面する」という違った意味になることです。offが入ることによって、「(課題と)対決する、取り組む」といった内容に変わります。
上の例文でface offの代わりにfightやbattle(これらのばあいにagainstはつきません)を使っても同じ意味になりますが、やはりface offを使うことによって、エイズ問題が待ったなしの問題として真剣に受け取られていることがうまく伝わるようになります。
アイスホッケーといえば北米4大スポーツの一つ、NHLがチームオーナーと選手間の労使交渉が決裂したために04−05年シーズンの全試合をキャンセルしてしまいました。北米4大スポーツ(MLB、NFL、NBA、NHL)がシーズ全てを中止するのは初めてのことです。
昨年は日本のプロ野球もついにストライキを実施しました。アイスホッケーや野球に限らず、オーナーや選手の都合で試合がキャンセルされることにファンは何も言うことができません。最大の楽しみを奪われるファンの気持ちを、せめてオーナーや選手たちが少しでも分かってくれることを願うばかりです。
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