先週の金曜日、西武ライオンズの西口文也投手が交流戦初となるノーヒットノーラン達成まであと一人と迫りながら、9回2死でソロホームランを浴びるという珍事がありました。西口投手本人にとっても、「あと一人」でノーヒットノーランの快挙を逃したのは2度目。2度もこのような経験をした投手は日本のプロ野球の歴史でもわずかに二人目という、非常に珍しい光景でした。
スポーツの世界ではしばしば「惜しい」ことがドラマになります。無名のチームが快進撃を続けながら、決勝戦では本命の強豪に負けてしまう。苦労人として有名な選手が、ついに悲願のオリンピック金メダルに届かないまま引退する。そして、西口選手のようにあと一歩で快挙を逃してしまう、などなど。
努力が必ずしも実を結ばない非情なスポーツの世界だからこそ、「惜しい」がドラマになりやすいのでしょう。
そういう風に考えると、優勝者よりも2位に終わった選手やチームの方がドラマチックなエピソードを生むものなのかもしれません。
英語ではこの2位をrunner-upといいます。もともとも語源はドッグレースから来ているのだそうです。あまり日本人にはなじみのないドッグレースですが、欧米では意外と人気が高いようで、僕自身フロリダ州マイアミでは陸上競技場さながらの立派な施設を持つドッグレース専用レース場を見て驚いた経験があります。だから、ドッグレースを語源とするスポーツ用語も意外と多くあるのです。
「2位」はsecond placeでも同じ意味になりますが、runner-upは「レースや長いシーズンを戦い終えた結果、優勝には届かなかった2番手」というニュアンスが強くなります。「準優勝」という日本語がピッタリくるかもしれません。ですから、ゴルフやテニスの世界ランキングでは2位のことをsecond placeというのが一般的で、runner-upを使う場合にはシーズンが終わった最終ランキングなどが多いようです。もちろん、シーズン中でrunner-upを2位という意味で使っても間違いではないですが、ニュアンスの違いは伝わりません。
もちろん、このrunner-upはスポーツ以外でも広く使われています。皆さんがよく目にするのは選挙報道などでしょうか。今度の選挙があったときにはジャパンタイムズの紙面でこの言葉を探してみてください。
僕自身が英文スポーツ記事を書く際には、意識的にrunner-upには「惜しくも敗れた」という意味を込めるように使います。2位とは言え優勝者に敗れたことは事実なのですが、「上」とか「〜し終える」という意味の含まれるupが使われているためにネガティブなイメージが軽減されている印象があるからです。
努力したけれどもあと一歩及ばなかった、それでも、スポーツ選手・チームとしてさわやかな感動を与えてくれたという賛辞の気持ちがrunner-upには込められている気がします。
日本語でも「決勝戦での敗者」というより「準優勝者」といった方が聞こえはいいですよね。そして、あと一歩で敗れた準優勝者のほうが達成感のある優勝者よりもドラマチックに見えてしまうのです。これも判官びいきなのかなあ。
|