故事成語や有名なエピソードが普段の生活の中で日常的に使われることがあります。たとえば、「泣いて馬謖(ばしょく)を斬る」という言葉があります。これは中国の歴史小説『三国志』の中の有名なエピソードに基づく言葉です。
『三国志』のヒーローの一人、諸葛亮孔明は馬謖という名の才能ある若者を将来の自分の後継者として育成していました。しかし、馬謖は孔明から目をかけられていることにおごり、重大な軍律違反を犯してしまいます。馬謖の才能よりも国としての法を重んじた孔明は、涙を飲んで馬謖を処刑し、自らも責めを負って降格処分を受けます。この故事にちなみ、現代では私情を排して公明正大な決断を下す(特にそれが自分にとって難しい決断である場合)という意味で使われます。
今回はスポーツのエピソードから生まれた言葉を取り上げましょう。
Say it ain't so, Joe.
ここで出てくるJoeとはメジャーリーグで有名なジョー・ジャクソンのことです。この言葉はジャクソンのファンだった少年が発したものだと言われています。
ジャクソンは1910年代にシカゴ・ホワイトソックスで活躍しました。「ジョーの前では三塁打もただのゴロになってしまう」と評された名外野手でした。3A時代に裸足でプレーしたこともあることから「Shoeless Joe」というニックネームで人気を博しました。
ところが、このジャクソンは1919年のワールドシリーズで八百長に関係した疑惑が持たれ、球界を永久追放されてしまいます。彼は多くのファンを最悪の形で裏切ってしまったのです。そのときにジャクソンに投げかけられた言葉がSay it ain 't so, Joe!だったのです。
Ain'tはam not、 are not、 is notを口語で短縮した形です(サザンオールスターズの『いとしのエリー』のイントロでもAin't nobody to disturb youというフレーズがありますね)。ですから、標題の文はSay (that) it is not so, Joe.となります。「そうじゃないといってくれ、ジョー」という意味、意訳するなら「うそだといってよ、ジョー」ってな感じでしょうか。
この言葉を日常生活で使うと、ちょっと映画のセリフをまねるときのような芝居臭さがあるかもしれませんね。でも、アメリカ人、特に野球好きの人に「うそだろう?!」といいたい場面で使うと、ニヤリとされるかも。ただし、イギリス人に向かって使って「My name is not Joe.」などと真顔で返されても責任持てませんから、そのおつもりで。
ところで、少年ファンからのこの言葉を耳にしたShoeless Joeはどんな思いだったのだろう・・・。
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