"Victory is fleeting. Losing is forever."
(70年代のテニス女王 ビリー・ジーン・キング)
スポーツ選手は誰しも試合に勝つために競技をしています。試合に勝つことが自分自身の存在意義を主張することにほかならず、ひいては生活の糧になるからです。
スポーツ選手が発する名言の中には勝敗にまつわる言葉が数多くあり、それらは競技に生きる選手の厳しさを例外なく私たちに教えてくれる味わい深いものです。今回はそんな名言の中から、70年代にテニス界を席巻した女子選手、ビリー・ジーン・キングの言葉を紹介します。
キングはアマチュアだった60年代からすでにトッププレーヤーとして活躍していました。68年にプロに転向するや、他を寄せ付けない強さを発揮し、女子スポーツ選手として史上初めて年間獲得賞金が10万ドルを超えるという偉業を成し遂げました。ちょうど彼女の全盛期だった70年代に日本でもテニスブームが起き、彼女は「キング夫人」の愛称で親しまれました。
引退するまでウィンブルドン大会の優勝6回、全米オープンは4度制し、世界ランキング1位の座を5年間も守りました。彼女よりやや遅い時代に登場したマルティナ・ナヴラチロヴァやクリス・エヴァートもキングには歯が立たないほど強かった選手です。
1973年にはかつてウィンブルドンも制した経験もある男子テニスプレーヤーと試合をして完勝したこともありました。このときキングは29歳の現役選手、相手はピークをとっくに過ぎた55歳のボビー・リッグだったとは言え、「女子の世界1位は男子の150位にも勝てない」と言われるテニスでは快挙とされる出来事でした。
女子テニス界の第一人者としての功績は、彼女がWTA(Women's Tennis Association=女子プロテニスツアー)の初代会長になったことにもうかがえます。
標題の言葉は負けず嫌いで有名だったキングの性格をよく表すものとして知られます。日本語にするなら「勝利は束の間の喜びだが、敗北の悔しさは永遠に続く」とでもなるでしょうか。いつごろ発せられた言葉なのかは明確ではありませんが、彼女の勝利に対する執念のようなものがにじみ出ています。
テニスの大会は一週間かけて行なわれ、毎週日曜日に決勝戦が行なわれるのが普通です。トーナメントの優勝者は翌日の月曜日にはすぐに別の場所に移動して新たな大会に参加しなければなりません。勝った喜びも束の間、すぐに新しいトーナメントで競技をしなければならないところにテニス選手の過酷な宿命があるのです。
70年代にテニスの女王として君臨していたキングにとって、トーナメントで優勝することは当たり前に期待されたことでした。女王は勝つのが当然であって、むしろ負けてしまったときの方が大騒ぎをされてしまいます。それだけにキング自身にとっても試合に勝った喜びはほんの束の間に過ぎてしまい、その代わり負けたときの悔しさはそれの何倍でもあったのでしょう。それが標題の言葉となって発せられたのです。
僕はキングがfleetという単語を使っていることに非常に興味を覚えます。Fleetは「束の間の」という意味の単語ですが、どちらかと言うと文語調で、口語で使われることは珍しいからです。とくにやさしい英語を使う傾向のあるアメリカ人であるキングが、あえてこの文語調の単語を使ったことに、彼女の女王としての風格とプライドが垣間見えるような気がします。
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