"If you even dream of beating me you'd better wake up and apologize."
(モハメド・アリ)
「蝶のように舞い、蜂のように刺す」と表現されたボクシングスタイルで一時代を築いたのがモハメド・アリです。最も人気のあるヘビー級で圧倒的な強さを誇り、右に出るものがないとまで言われたアリは、ボクシングのみならず、70年代のスポーツ界全体のスーパースターでもありました。しかし、その人生は決して明るい道だけを歩んできたわけではなかったのです。
子供のころに自転車を盗まれたのがボクシングを始めるきっかけになったというのはよく知られるエピソードです。最初こそ悔しい思いでボクシングを始めたアリも、続けていくうちに競技の面白さに目覚め、そして才能を開花させます。
1960年のローマオリンピックではライトヘビー級で金メダルを獲得し、プロに転向してからも連戦連勝で、ついにヘビー級を制するまでになりました。
しかし、黒人の自由を求める言動やベトナム戦争に反対する過激な発言などがあらぬひぼう中傷を呼び、王座をはく奪されたばかりか、4年間もの出場停止処分を受けたのです。悔しさのあまり、オリンピックの金メダルを川に投げ捨てた逸話もよく知られるところです。
後に復権が認められ、出場停止期間中のブランクにもかかわらずアリは再びヘビー級のスーパースターとして一時代を築くことになるのですが、それでも権利はく奪時代は彼の輝かしいボクシング人生に暗い影を落としています。
1996年のアトランタオリンピックでは聖火リレーのアンカーとして現われ、世界中をあっと言わせました。その際に彼が見せた姿はパーキンソン病と戦う、全盛期の彼を知る人々からは想像すらできない変わり果てた姿でした。それでも、震える手で成果を高々と掲げるアリの姿は感動を呼びました。今でもその姿はオリンピック史上に残る名シーンとして語り継がれています。
標題の言葉はヘビー級チャンピオンとして最強を誇っていたころの自信に満ち溢れた発言です。アリは大きな試合の前には相手を挑発する言葉をよく口にしたものです。曰く、「ジョージ・フォアマンには俺の姿が見えるわけがないさ」、「俺は蝶のように舞い、蜂のように指すんだ。見えないものが打てるわけないだろう」などなど。それらに共通しているの自分の強さをみじんも疑っていないことです。
上記のアリのセリフにあるevenは強調の意味で使われています。Ifと同時に使われることで、「もし、〜するようなことがあれば」という意味になります。ここでは「(そんなことはないとは思うが)もし、お前が万が一にも俺を倒そうなんて夢を見ているなら」くらいの意味合いでしょう。それほどアリはふそんとも思えるほどに自分の力に絶対的な信頼を置いていたのです。そして、you'd better wake up and apologizeと続けます。You'd betterはyou had betterで「〜したほうがいい」の意味。「目を覚まして謝罪した方がいい」と訳せます。Had betterは相手に対してやんわりと命令する言い方で、決して目上の人に使う言葉ではありません。ここにもアリの相手を見下す態度が見てとれます。このセリフは単語の端々にアリの自信がうかがえる興味深いものなのです。
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