"A good hockey player plays where the puck is. A great hockey player plays where the puck is going to be."
(ウェイン・グレツキー)
アイスホッケー、とくにNHL(National Hockey League)のファンにとって2004-05年はつらいシーズンでした。北米4大スポーツの一つであるNHLは、チームのオーナー側と選手会の間で年俸や待遇面で合意が得られず、ロックアウト(オーナー側が一方的にチームとしての活動を禁止する状態)という最悪の結果を招いてリーグ戦が全く開催されなかったからです。
幸いに今年は労使交渉もまとまり、2年ぶりにリーグ戦が正常な形で行なわれることが決定していますが、一度離れてしまったファンの心をどう取り戻すかはリーグ全体が取り組まなければならない大きな課題です。
そんなNHLに救世主が帰ってきました。ウェイン・グレツキーがその人です。今年からフェニックス・コヨーテズの監督に就任、6年ぶりに氷上のステージに戻ってきたのです。
グレツキーは「Great One」とのあだ名を持つNHLきってのスーパースターでした。NHLでNBAのマイケル・ジョーダンに匹敵するほどの実績と人気を誇ったといえば分かりやすいでしょうか。
1999年に43歳で引退するまで20年間にわたってNHLでプレーし、その間つねにトップ選手でいました。生涯ゴール数、アシストはいずれも NHLの歴代1位にランクされています。オールスター戦には18年連続で出場し、そのうち3回でMVPに輝くという偉業も成し遂げました。98年には長野オリンピックでカナダ代表の一員として来日し、引退直前の最後の勇姿を私たちに見せてくれました。
そのグレツキーが監督としてNHLに帰ってくることは人気回復を目指すリーグにとっては歓迎すべきことでしょう。コヨーテズの選手よりもむしろ、グレツキーを目当てにアリーナに足を運ぶファンも少なくないはずです。北米4大スポーツでスーパースターとして活躍した選手が引退後に監督やヘッドコーチとして現場に復帰する例は珍しいと言っていいでしょう。たいていは現役時代になした財産を使ってレストラン経営などの実業界に身を転じる人が多いからです。
「名選手は必ずしも名監督ならず」というスポーツ界で言い古された言葉もありますが、指導者として失敗して現役時代の栄光に傷をつけたくないという考え方もあるようです。また、僕がかつてインタビューしたNFLの選手などは、「現役時代にコーチがいかに激務かであるかを目の当たりにしてきたので、自分はそういう道を選びたくない」と言っていました。考え方も人それぞれですが、絶大な人気を誇った選手が引退後、急に一戦から退いて表舞台から全く姿を消してしまうのも寂しいものです。
彼のセリフとして取り上げた冒頭の言葉はうまい対句になっていて、それが「名言」を演出しています。Good playerとgreat playerが比較をなしていて、where the puck isと where the puck is going to beも時制が対となっています。Good とgreatを比較するのは英語の常とう手段です。そこには「goodでも十分素晴しいのだが、greatはもっと素晴しい」という意味が言外に込められています。氷上をすばやく動くパック(ホッケーで使うボールのようなもの)に常についていける選手というのはそれだけで十分に才能豊かな一流選手だといえます。しかし、パックの動く方向を予測してそこでプレーする選手が本当に偉大な選手なのだとグレツキーは言うのです。彼の言葉を意訳するならこうなるでしょう。「パックについていければ一流の選手だ。しかし、超一流の選手というのはパックの動きを予測してプレーをするものだ。」
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