"Never discuss love with a tennis player,it means nothing to them."
(発言者不詳)
これは誰が発言したかは伝えられていません。短歌に例えて言うなら読み人知らずの名言です。ご存知の通り、テニスでloveといえば0点のこと。そのloveと「愛」という意味のloveをかけたしゃれです。
厳密に言うならこの言葉には文法的に不適切な部分があります。前半のa tennis playerを後半でthemと言い換えているからです。学校のテストでこう書くと間違いにされることがあるので気をつけてください。A tennis playerとは特定の選手のことを言っているわけでは なく、一般的な意味で「テニスの選手」と言っているに過ぎません。その一般的なテニス選手全体を代名詞で複数形にすることは会話ではよくあることで、そういう意味では間違いではありません。
テニスでなぜ0点をloveというかは諸説があります。有力なのは0が卵の形に似ていることから、フランス語で卵を意味する「l'oeuf」がイギリスに伝わってloveと呼ばれるようになったという説です。また、テニスがスポーツとして形を成した中世の時代に使われていた古い英語ではlove の中にnothingの意味も含まれていて、それがそのまま残ったとも言われています。
テニスの得点を数える方法が0、15、30、40と不規則なのは、中世のヨーロッパの貨幣制度に由来するのだそうです。当時のヨーロッパでは貨幣の単位が15、30、45というように15刻みだったのだとか。テニスのひとつひとつの得点に賭けをしたことから、それがテニスの得点を数える方法として定着したと言われます。ならば最後は45ではないかと思うのですが、45(forty-five)は言いづらいので省略して40(forty)と言うようになったと伝えられています。
スポーツには独自の得点方法があります。野球はランナーが4つのベースを1周して得点になります。サッカーはゴールにボールを入れることで1点となります。日本語では両方とも「1点」と数えますが、英語では野球の得点をrun、サッカーではgoalまたはpointと呼び分けます。これはスポーツの得点方法に由来する言い方で、スポーツの性格をうまく言い表していると思います。
また、スポーツでは日常的に使われる言葉が別の意味で使われていることがよくあります。標題のloveもそうですが、例えばサッカーのgoal は日常生活では「目標」といった用法が一般的ですね。アメリカンフットボールでは得点することをtouchdownといいますが、これは日常生活では「着陸」の意味。こうした異義語を利用して面白おかしくしゃれるのも英語ではよくある言葉遊びなのです。
余談ですが、日本ではスポーツの用語は言語をそのまま使うことが多いです。タッチダウン、ゴール、トライ、サービスなどなど。日本語に訳されている専門用語が多いのは野球ですね。ベースボールを「野球」と翻訳したのは大正の俳人・正岡子規であるというのは実は俗説だそうですが、明治や大正期に日本に紹介されたスポーツは第二次世界大戦を境に和訳が進んだようです。ただ、そのほとんどは今では使われておらず、主だったものでは野球用語や陸上用語だけが残りました。
日本語の野球用語というのは不思議と殺伐とした言葉が多いと思いませんか?けん制でアウトにすることを「刺す」、投球間に隙を見て進塁することを「盗む」(これは英語でもstealといいます)、ピッチャーの投球に打者が当たることを「死球」と呼びますね。こういう訳語は誰がどういう意図で考えたものなのでしょう?
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