"A penalty is a cowardly way to score."
(ペレ)
名選手と呼ばれる競技者ほど自分のスポーツにプライドを持っているものです。スポーツを取材し、身近に選手に接する機会を持つとそのプライドの高さに驚かされます。プロ意識が強い人ほどそういう傾向があるような気がします。
この数年、マリナーズのイチロー選手は数多あるインタビューの依頼をほとんど受け付けなくなりました。彼ほどの選手ですから、すべてのオファーを受けていれば体が持たないのは当然ですが、それ以上にこれは彼の野球に対するプライドの高さを物語っていると思うのです。取材する側が知識不足であると感じたとき、イチローは質問に対する受け答えも上滑りなものになるという話を聞いたことがあります。逆に、彼の独特の理論を理解できる人には饒舌になるそうです。
イチローは人には真似のできない努力であそこまで登りつめた人ですから、メディア側の勉強不足は彼のプロ意識では許せないのでしょう。それだけ野球にプライドを持っているといえると思います。もっとも、プロ選手というだけで無意味に傲慢な態度を見せる選手もたくさんいますが。
ペレはサッカー界で最も世界に知られた人物でしょう。ブラジルが生んだ世界最高のアスリートの一人です。 本名はエドソン・アランテス・ド・ナシメントという長ったらしいものですが、誰もその名前で彼を呼ぶ人はいませんね。
彼が世界中にその名を知らしめたのは1958年のワールドカップでした。前年にブラジル代表としてデビューしたばかりのペレはフランスとの準決勝でハットトリックを決め、世界中の注目を集めました。170センチというスポーツ選手では小柄な部類に入るサイズながら、俊足と魔術のようなボールさばきで世界の度肝を抜きました。
当然、ヨーロッパを中心に世界中のサッカーチームから入団の誘いが殺到します。しかし、故国ブラジルをこよなく愛するペレは、他国でプレーしようとはしませんでした。イタリアの名門チーム、ユベントスが彼に白紙の小切手を送って希望の金額で獲得しようとしたエピソードは有名。現役生活の終盤にアメリカ合衆国のチームでプレーしたことはありますが、それ以外はブラジルでのサッカー生活にこだわった選手でした。
4度のワールドカップ出場と3度の優勝を経験したペレが生涯に記録した得点は1281にも上ります。サッカーは野球などと違って、ロースコアで決着するゲームです。「1点」の重みは他のスポーツの比ではありません。オフサイドやペナルティキックなどを見てもわかるように、サッカーは得点シーンに反則が絡むことが非常に多いスポーツのひとつです。しかし、貴重な1点を反則を犯してまで得点することはペレの美学、そして、サッカー人としてのプライドにかけて許されることではなかったのでしょう。ここにもペレのプロ意識とサッカー愛が感じられるのです。
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