"タイトルなんかいらない。1,000万円やるからバケツ一杯の水を飲ませてくれ。"
(ガッツ石松)
今回は趣向を変えて日本語の名言を取り上げます。発言者は元ボクシング世界チャンピオンで、現在はバラエティ番組に出演するほか俳優としても幅広い芸能活動を繰り広げるガッツ石松です。
ガッツ石松(本名 鈴木有二)は1961年4月11日にメキシコのロドルフォ・ゴンザレスを破ってWBC世界ライト級世界王者になりました。防衛回数は5回。日本人なら誰でも知っている戯曲の登場人物、森の石松の格好をして入場するパフォーマンスは大きな人気を呼びました。
ライト級にしては体の大きい石松は減量に苦しんだそうです。最大では15キロも体重を落として試合に臨んだともいわれています。ボクサーにとってはチャンピオンになる栄誉ももちろん大切ですが、腹いっぱいに物を食べられるという欲求も捨てがたいものです。あるボクサーは引退の際に、「これで思いっきり飯が食える」と言ったそうです。
石松はタイトルを獲得した際に上記の名言を残しました。減量に苦しんだ彼にとっては腹の足しにならないタイトルよりもとりあえずはバケツ一杯の水が欲しかったのです。ボクサーの過酷な減量を物語る有名なエピソードです。
テレビで見るガッツ石松はどこか常識から外れている、いわゆる「天然ボケ」で人気を博しています。彼の素顔を知るある他社の先輩記者から聞いた話ですが、ガッツ石松という人はとても情にあふれた魅力的な男性なのだそうです。ボクシングの解説をすることも多い石松ですが、若いアナウンサーやスタッフに対する気配りは決め細やかで、声を荒げる場面を見たことがないといいます。彼の独特なキャラクターに加えて、この人柄がタレントとして成功している秘けつなのでしょう。
お笑いタレントのはなわが歌った「ガッツ石松伝説(伝説の男)」の中でも紹介されていますが、「ガッツポーズ」とはガッツ石松から生まれた言葉です。石松がボクシングで勝つたびに見せたポーズが広く知られ、それが「ガッツポーズ」と呼ばれるようになったのです。
僕がまだ新人のころ、記事中で「guts pose」と書いたところ、ネイティブのエディターに直されて、そのときに初めてこれが和製英語なのだと知りました。それが、ガッツ石松から来ていると知ったのはもっと後のことでしたけれど。
さて、標題の「1,000万やるから」以降を英語に直すとどうなるでしょう。いろんな訳し方があると思いますが、僕なら次のように訳します。
I would exchange \10 million for a bucket of water.
これを英訳するときにはwouldがキーワードになります。仮定の話をしているのですから、wouldを使う必要があります。現在形の exchangeでは日常的にバケツ一杯の水と1,000万円を交換していることになってしまいますし、willを使うと「絶対に交換するんだ」という強い意思が現れてしまいます。「自分だったらこうする」といった仮定の話をするとき、wouldはとても使い勝手のいい単語なのです。
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