"We didn't lose the game, we just ran out of time."
(ヴィンス・ロンバルディ)
サッカーやバスケットボール、アイスホッケーなど競技時間が定められているスポーツは数多くあります。その中でもアメリカンフットボールは時間をどう使うかが重要な戦略となるユニークなスポーツです。 アメリカンフットボールは15分のクオーターを4つ行ない、正味60分で試合が行なわれます。しかし、実際にゲームに要する時間はおよそ3時間半。それはサッカーやラグビーなどと違い、頻繁に時間が止まる、つまり、ゲームの計測時間がストップするからです。
フットボールではボールを持っている選手がサイドラインを割って外に出たとき、オフェンスのパスが失敗したとき、タイムアウトがとられたときなどに計時が止まります。ですから、正味の60分よりも大幅に試合時間が長くなるのです。
時間をいかにうまく使うかがフットボールのヘッドコーチの重要な采配の一つになります。ヘッドコーチは常に自分たちが攻撃している時間を多く保とうとします。自分たちのオフェンスが攻撃をしている間は、相手チームのオフェンスはベンチに下がったままで、得点のチャンスが少なくなるからです(フットボールではディフェンスでも相手からボールを奪い、得点をする機会があります)。これをボールコントロール、もしくはクロックコントロールなどと呼びます。
試合の終盤に差し掛かり、負けているチームは時間を節約しながらオフェンスを展開します。例えば試合の残り時間が2分という場面で、Aチームが Bチームを17−14でリードしているとしましょう。Bチームは2分という短い時間の中でタッチダウン(6点)で逆転、もしくは最低でもフィールドゴール(3点)で同点にする必要があります。そこでBチームはパスでボールを進め、パスをキャッチした選手はすぐにサイドラインから外に出て、計時を止めます。また、タイムアウト(前後半で3つずつ)を駆使して時計を止めます。2分という限られた時間の中でうまくプレーを成功させてゴールに少しでも近づこうとするのです。フットボールで最も盛り上がるクライマックスの場面です。
うまく逆転に成功すればいいのですが、ここでも問題が一つ生じます。逆転したときに残り時間がたっぷり残っていると、Aチームに再び攻撃のチャンスが生まれ、再逆転される可能性があるからです。実際に今シーズンもこのような試合がありました。試合時間約3分で7点差を追うピッツバーグ・スティーラーズは、終盤に粘りを見せて同点に追いつきます。そのとき、試合の残り時間は1分21秒でした。対するニューイングランド・ペイトリオッツは残り時間を有効に使い、ついに残り1秒で決勝フィールドゴールを成功させて劇的な勝利を手にしました。結果的にスティーラーズは同点に追いついた際に時間を残しすぎたのです。ここにも時間の使い方の難しさがよく現れています。
ずいぶんと前置きが長くなりましたが、今週の名言です。ヴィンス・ロンバルディはこのコラムの第3回にもご登場願った、元NFLグリーンベイ・パッカーズのヘッドコーチです。彼はチームが負けた試合のあとに、何が原因かと聞かれて標題のように答えたのです。「負けたのではない。(逆転する)時間が足りなかっただけだ」というのは、負け惜しみ以外の何ものでもありませんが、いかにも勝ちにこだわり続けたロンバルディらしいセリフではあります。
彼が60年代に率いたパッカーズは現在でも強豪チームの一つです。ただ、今シーズンは第10週を終えて2勝7敗と苦しんでいます。過去10年、毎年のように出場していたプレーオフも今年ばかりは絶望的です。ロンバルディさん、今年はちょっと時間が足りなさ過ぎたようですね。
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