"Good, better, best. Never let it rest. Until your good is better and your better is best."
(NBAスパーズ ティム・ダンカン)
ティム・ダンカンはNBAサンアントニオ・スパーズに所属し、パワーフォワードとして高い評価を受けている選手です。オフェンスではポイントゲッターとして貢献する一方でディフェンスでも高い技術を持ったプレーを披露します。過去にNBAファイナルのMVPに3度選出されるなど、不動のトッププレーヤーとして現在でも活躍しています。
ダンカンは派手さこそないものの、基本に忠実なプレーをするタイプの選手です。そのテクニックの高さはプロデビュー以来8年連続でオールNBAに選出されていることからも折り紙つきです。
スポーツ選手にとって実力を維持することが何よりも大切です。自分のパフォーマンスによってお金を稼いでいるプロ選手ならなおさらのことです。今日よりも明日、今年よりも来年と常にレベルアップを図ることが要求されます。レベルの高い選手は相手チームからのマークも厳しくなり、さらにそれを上回る実力が必要となります。
次々と新しい選手が誕生する中で、年齢とともに衰えていく身体能力とも戦わなければなりません。プロ選手が長年高いレベルでのプレーを維持するためには、常人では考えられないほどの努力が要求されるのです。
ダンカンは高いレベルを維持することの難しさを痛感した選手の一人でしょう。スパーズは今世紀にはいってから2003、2005年にリーグ優勝を果たしました。リーグ優勝を果たすたびにダンカンとスパーズに対する他チームの包囲網は厳しくなります。また、それを凌駕(りょうが)するほどの実力をつけなければ、競争の厳しいNBAの世界ではあっという間に下位に沈んでしまうからです。
今回取り上げたダンカンの言葉はまさにスポーツ選手が直面する課題を言い当てたものです。常に向上する意識を持ち、それに向けて努力することの大切さをgood、better、 bestといった比較級をうまく用いて説いて います。
ダンカンはgoodをbetterに、betterをbestにする努力を惜しむなという内容を、Never let it rest.という言い回しで表現しています。つまり、「向上心を休ませるな」ということです。日本語なら「向上心を無くすな」と表現するところでしょう。日本語では向上心を「もの」として捉えているのに対し、英語ではあたかも向上心そのものが意思を持った人間であるかのように表現することが、この文を見ても分かります。こういった表現はmakeやletといった動詞のときに多いようです。
What made her cry? という文を考えてみましょう。現代の日本語では「何が彼女を泣かせたか?」と訳しても違和感がありません。しかし、昭和以前の日本にはこのよういに「もの」を主語とする言い回しがありませんでした。思うに、「何が〜させた」という表現方法は英語が教育に取り入れられてから日本語に定着したものではないでしょうか。上の文はやはり「彼女はなぜ泣いたのか?」と人物を主語にして訳した方が日本語らしいと思います。
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