あんな相撲をとった自分が悪い
(第48代横綱 大鵬)
今回は久しぶりに日本語の名言を取り上げましょう。
大相撲の初場所が始まりました。無敵の横綱朝青龍が連続優勝をどこまで伸ばすか、新大関琴欧州がいかに朝青龍に対抗できるかが話題となっています。相変わらず日本人力士の話題に乏しいのが寂しい限りです。いくら相撲がインターナショナルになったからと言って、国技といわれるスポーツに日本人力士の活躍が見られないのはやはり残念です。
1960年代を席巻した大力士に大鵬幸喜がいます。60年に新入幕するや、翌年には横綱に昇進するという超スピード出世を果たしたほどに強い力士でした。その当時の子供たちが好きなものの代表に「巨人、大鵬、玉子焼き」とうたわれるなど絶大な人気も誇りました。人気と実力だけでなく、横綱としてのプライドと責任感も人一倍でした。69年の春場所のことです。それまで45連勝をしていた大鵬は大会2日目に戸田(後の羽黒岩)と対戦し、敗れてしまいます。しかし、あとでビデオで確認すると戸田の足が先に土俵を割っており、大鵬が勝っていたはずの取り組みだったことが判りました。それを見た大鵬は、さすがにショックをうけたものの、「(勝敗で誤解を招くような)あんな相撲をとった自分が悪い」と述べたということです。横綱は常に勝利することが求められます。ただ勝てばいいのではなく、堂々と相手を正面から受け止めてそれでも圧倒することが要求されるのです。外国人初の横綱となった曙は張り手を得意としていましたが、横綱にふさわしくない技だという理由で批判され、その後がっぷりと組む四つ相撲を身に付けざるを得なくなりました。それが、足腰の安定しない曙の弱点ともなっていったのですが、それは今回とは別の話。横綱はそれほどに要求されるレベルが高いということです。
まさに大鵬のこの一言は横綱に要求される過酷な試練を真正面から受け止め、それを実践していることの表れです。こういう一言に触れるたび、スポーツを究めた人の懐の深さに感心するものです。
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