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スポーツ名勝負・名場面

By Hiroshi Ikezawa / 生沢 浩

スポーツ記者、生沢浩の13年に及ぶスポーツ記者生活の中で、忘れることのできない名勝負・名場面をピックアップして、それを英文記事でどのように伝えたのかを紹介しています。
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Hiroshi Ikezawa / 生沢 浩

Vol. 1 : イチローがピッチャー!?

スポーツの現場に長く携わっていると、たくさんのドラマチックな場面に出合います。歴史に残る大記録もあれば、いつまでも人々の記憶に刻まれる名勝負や名場面も少なくありません。そういうシーンに出くわしたときこそが、スポーツ記者でいる喜びを感じることができる瞬間です。 このコラムでは、僕の13年に及ぶスポーツ記者生活の中で、忘れることのできない名勝負・名場面をピックアップして、それを英文記事でどのように伝えたのかを紹介していきます。皆さんがこのコラムを読んで、英文のスポーツ記事に親しみ、スポー ツをより好きになってもらえればうれしく思います。

僕自身が数多く取材してきた名場面のうちから、トップ5を選んでみました。第1回目の今月は、現在MLBシアトル・マリナーズで活躍するイチロー選手がなんと投手としてプレーしたという珍しいシーンを振り返ります。

第5位「最初で最後?イチローの登板」1996年プロ野球オールスター第2戦 1996年7月21日東京ドーム

イチローこと鈴木一朗外野手が世間の注目を浴び始めたのは1994年の5月ごろだった。92年にオリックス・ブルーウェーブでプロデビューしたイチローは、当時の土井正三監督の起用方針のため、一軍でプレーする機会はほとんどなかった。最初の 2年間でわずか83試合しか出場せず、合計でも36本のヒットしか記録しなかったのだから、彼が全くの無名選手だったのも無理はない。

そのイチローが94年シーズンの開幕からヒットを量産し、一気に注目を浴びるようになった。そのシーズンに年間210安打という日本記録を樹立し、一気にスターダムにのし上がったのは周知の通りだ。

このころのプロ野球は前年に開幕したJリーグに圧倒されて人気が低迷していた。 それが、イチローの台頭と松井秀喜(当時読売ジャイアンツ、現NYヤンキー ス)の活躍などがあって徐々に人気を盛り返していったのだった。

95年にオリックスはイチローを中心としてパ・リーグ優勝を果たす。日本シリーズではヤクルトに敗れたものの、標題のオールスター戦が行なわれるころには、イチローはその人気を不動のものとしていた。オールスター戦のファン投票はダントツのトップ当選。まさにスーパースターの風格が漂っていた。 イチローの最大のセールスポイントといえばなんと言ってもそのバッティングだ。 右足を後ろから前にぶらりと振る独特のバッティングフォームは、当時振り子打法と呼ばれて話題を呼んだ。この振り子打法によって微妙なタイミングを取り、いとも簡単にヒットを生み出すのがイチローのスタイルであり、最大の魅力だった。

そのイチローが一度だけピッチャーとして登板したことがあるのをご存知だろうか。

球史に残る(?)この珍場面が起きたのはオールスター戦第2戦のことだ。

パ・リーグが7−4とリードして迎えた9回表、日本ハムの西崎が江藤(広島)と大豊(中日)を打ち取って松井を迎えると、パ・リーグの仰木彬監督(オリックス)がピッチャーの交代を告げた。西崎に代わってマウンドに立ったのが外野を守っていたイチローだったのだ。 このシーンのことを、翌日のジャパンタイムズ紙に掲載された僕の記事は次のように伝えている。 "With the PL up 7-4 in the ninth(PL=パ・リーグが7-4としてリードして迎えた9回), pitcher Yukihiro Nishizaki (Nippon Ham) retired Akira Eto and Yasuaki Taiho (Chunichi)(注:ここでのretiredは「打者を打ち取った」という意味). Then Ichiro, who was a pitcher in his high school days, was called up to face Hideki Matsui of the Yomiuri Giants."

ゲームの終盤を迎え、沈滞ムードにあった東京ドームはこの意外な展開に大いに盛り上がった。ドーム内の歓声はおそらくこの日で一番大きかっただろう。セ・パ両リーグを代表する二人のスラッガーが、打者と投手に別れて文字通り直接対決をする場面だ。この日ドームにいたファンたちは、このまれな場面を目撃することのできる自分の幸運を神様に感謝したに違いない。かく言う僕もその一人だった。 かくして、その「夢の対決」の結末は―。

"But the dream match between the two popular sluggers was cancelled as CL manager Katsuya Nomura replace Matsui with pitcher Shingo Takatsu. "

そう、この夢の対決は実現しなかったのだ。イチローがマウンドに立ってピッチング練習を始めるや否や、セ・リーグの野村克也監督(ヤクルト)はベンチから飛び出し、さっさと松井を引っ込めてしまったのだ。

これには裏話がある。イチローが投手を務めることになったとき、野村監督は松井選手のところへ行き、「イチローと対戦したいか?」と訪ねたそうだ。松井の答えは「したくありません」だった。

野村監督は宿敵ジャイアンツの松井を高く評価していた。かねがね彼は松井をして「プロ野球の至宝だ」とか「日本を代表する4番バッターだ」と評していた。その松井が、本職のピッチャーではないイチローに万が一にも死球を受けて故障をしてはいけない。ケガをしないまでも、打ち取られるようなことがあれば松井のプライドは傷つき、ファンは失望する。松井にしてみれば、打ったところで自慢にはならない。結果はどうあれ、イチローの引き立て役に回ってしまうだけなのだ。

この場面はさまざまな議論を呼んだ。オールスター戦なのだから目くじらを立てなくてもいいではないか、これこそ夢の球宴にふさわしい対決だという論調もあった。仰木監督の考えはまさにこれだった。仰木監督はユニークなアイデアの持ち主で、さまざまな趣向を凝らしてゲームをより面白くした。よく知られるように、登録名を鈴木一朗からイチローに変えさせて注目度を高めたのは仰木監督のアイデアだ。

仰木監督はイチローの投手起用について、次のように述べている。

"(Ichiro) has a good arm as well as fine batting ability" (イチローはバッティングのみならず、肩もいい。注:この場合の「肩」は、英語ではshoulder では なくarmを使う), Ogi said. "I've been hoping to see him pitch in a game."

イチローの肩の強さは定評がある。外野からダイレクトでホームプレートに返球するシーンはすでにおなじみだ。オールスター戦の前座として行われたスピードガンコンテスト(マウンドに立ってピッチャーのように投げてそのスピードを競う余興)でも、本職はだしの140km/hを記録してファンを驚かせたりもした。仰木監督はこの能力を投手としても使いたいと思ったのだろう。これはこれで正論と言っていい。確かに仰木監督は後に嘉勢外野手を投手に転向させて、公式戦でも登板させている。

一方、野村監督の考えは正反対だ。オールスター戦といえども、おふざけではない、打者の登板など不謹慎極まりないと怒り心頭だった。代打に投手の高津を送ったところに野村監督の意地が見え隠れして面白い。

ところで、当のイチローはこの投手起用をどのように思ったのだろうか。

"It was manager Ogi's decision and I just obeyed it, Ichiro said. I concentrated on throwing strikes. I'm glad that the fans really enjoyed my pitching. "

監督の命令に従っただけとは言いながら、なかなか楽しんだようである。

さて、このイチロー対高津の「投打逆転対決」は、ショートゴロに打ち取ったイチローに凱歌があがった。余談だが、高津投手は今年からMLBシカゴ・ホワイトソックスに在籍しており、同じアメリカンリーグのイチローとの対戦も予想される。このオールスター戦から8年を経て二人がメジャーリーグの舞台で対戦するというのも一興だ。

★よく、「イチローってどんな人?」と聞かれる。テレビやスタンドから見るイメージと本当の人物がどう違うのか(あるいは同じなのか)はだれしもが興味を覚えるのだろう。僕自身、イチロー選手を数多く取材したわけではないが、その経験の中で言うと、記者への対応は非常にいいという印象だ。彼のようなスター選手はやはり多くの記者に囲まれる。それでも、イチローは嫌な顔をせずに、決められた時間内いっぱいでできるだけ多くの質問に丁寧に答えてくれる。ぶっきらぼうな応対をする選手の少なくないプロ野球界では、取材しやすい選手の一人だ。ただ、「いい人」かどうかは、個人的な付き合いがないので分からない。

言うまでないことだが、僕らスポーツ記者の仕事は試合後に本番を迎える。ゲーム終了と同時に選手のコメント集めに奔走し、試合の記事を書いて会社に送稿する。僕ら英文記者の場合にはネイティブスピーカーによる文法と内容のチェックを受けて初めてOKとなる。夜遅くに終了するナイトゲームでは、締め切り時間との兼ね合いから記事を書く時間は30分弱だ。コメント集めに手間取った場合など、15分で長めの記事を書かなければならないなんてことも珍しくはない。

オールスター戦は打撃戦になることが多く、選手の交代も通常の公式戦よりも増えるので、試合時間が長くなりがち。こういうとき、僕は試合の展開に合わせて、試合を見ながらリアルタイムで記事を書き、あとでつなぎ合わせるという作業をする。この日の試合もそうだった。

ところがこの日ばかりはそれが無駄になった。9回に入り、試合もほぼ終わりに近づいたと思った矢先にイチローの登板があったのだから。仕上がりかけていた記事は、全面的にとは言わないまでも、大きな書き換えが必要だ。試合の勝敗よりも、イチローがピッチャーとして登板したということのほうが大きなニュースだからだ。僕だけでなく、この日の試合を取材していた記者は、みんな大慌てだったのを覚えている。新聞記者という仕事は、これで結構大変なのだ。

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