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スポーツ名勝負・名場面

By Hiroshi Ikezawa / 生沢 浩

スポーツ記者、生沢浩の13年に及ぶスポーツ記者生活の中で、忘れることのできない名勝負・名場面をピックアップして、それを英文記事でどのように伝えたのかを紹介しています。
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Hiroshi Ikezawa / 生沢 浩

Vol. 2 : あと1ヤード!わずかに届かなかったリーグ制覇

今年最大のスポーツの話題といえば、なんといっても来月のアテネオリンピック。早いもので僕がジャパンタイムズに入社してから、夏冬あわせて8回目のオリンピックとなります。今年も忙しい夏がやってきます。

 さて、僕がこれまで取材してきたスポーツの中から名勝負や名場面のトップ5をピックアップして紹介するこのコラム、第2回目の今月は僕の最も得意な分野で、ライフワークでもあるNFL(ナショナルフットボールリーグ=アメリカのプロフットボールリーグ)の話題です。

 NFLは北米4大スポーツリーグ(MLB、NFL、NBA、NHL)の中で全米ナンバー1の人気を誇ります。今回はそのNFLの優勝決定戦、スーパーボウルから名場面を選びました。「あと1ヤード」が決した劇的な幕切れ。ラストシーンが今でも脳裏に焼きついている、第34回スーパーボウルからの名場面です。

第4位 「あと1ヤード!わずかに届かなかったリーグ制覇」第34回スーパーボウル
2000年1月30日 アトランタ ジョージアドーム

NFLは現在32チームで構成され、16チームずつアメリカンカンファレンス(AFC)とナショナルカンファレンス(NFC)に分かれる。各チームは週に1試合を行ない、1週のオフを挟んで17週間かけて全16試合のレギュラーシーズンを戦う。試合数よりもチーム数のほうが多いから、当然1シーズンで全てのチームと対戦するわけではない。

 各カンファレンスからレギュラーシーズンの成績の上位チーム6チームずつがトーナメント方式のプレーオフに進出し、それぞれのカンファレンス優勝チームがNFL王座決定戦を行なう。これがスーパーボウルだ。

 MLB(ワールドシリーズ)、NBA(NBAファイナルズ)、NHL(スタンレーカップ)の王座決定戦は全て7回戦制(英語ではbest of sevenという)で行なわれるが、このスーパーボウルは1回こっきりで勝敗を決する。アメリカンフットボールは消耗の激しいスポーツなので、7試合もやってられないのである。

  ところで、アメリカンフットボールでよく使われるこの「ボウル」とは英語で表記するとbowlで、すり鉢やサラダなどに使う器のこと。アメリカンフットボールの競技場の形がすり鉢状であることからこう呼ばれる。だから、Super Bowlは「スーパーボウル」と表記するのが正しいのであって、「スーパーボール」ではない。スーパーボールとはよく弾むゴムボールのこと。もっとも、スーパーボウルはこのスーパーボールからヒントを得て命名されたのだけれど。

 そもそもスーパーボウルとは・・・・・おっと、ついNFLのことになると余計な力が入ってしまう。スーパーボウルの詳しい説明は別の機会に譲るとして・・・

 全米のみならず世界中で注目を集めるスーパーボウル(なんといっても、世界160 カ国以上で放映され、9億人以上が視聴するといわれているのだ)だが、試合そのものは意外に大差がついて興味をそがれることが少なくない。接戦を期待しているとがっかりさせられることが多いのだ。1995年に行なわれた第29回大会などは、圧倒的な点差がついてしまったために、試合途中にもかかわらずゲームのMVPが発表されてしまった。

 ところが、2000年1月の第34回大会は違った。最後まで勝敗の行方が分からないスリリングな展開となったのだ。そして、その勝敗を決することになったのはわずか1 ヤード(91センチ)の差だった。

 この年の対戦はAFC代表のテネシー・タイタンズ(Tennessee Titans)とNFC代表のセントルイス・ラムズ(St. Louis Rams)だった。ともにシーズン前の下馬評は高くなく、意外性の高い組み合わせとなった。ラムズに至っては前年の地区最下位からの大躍進で話題を呼んだ。

 タイタンズは前年までオイラーズという名だったが、この年はタイタンズに改名し、ユニフォームのデザインも一新して臨んだ。当時のNFLには「ユニフォームを変えるとチームが躍進する」というジンクス(注:英語でジンクス=jinxとは悪い意味で使われるのが普通。ここのようにポジティブな意味で使う場合、jinxではなく、 omenを使います。念のため)があり、まさにタイタンズはその時流に乗った形だった。

 ラムズにもドラマがあった。ラムズの中心選手はQBカート・ウォーナー(Kurt Warner)だったが、これが前年まで全くの無名の選手。一時期は食費を稼ぐのにコンビニエンスストアでアルバイトをしていたという経歴の持ち主だった。シーズン開幕直前にエースQBが大怪我をしてシーズンを棒に振ったため、急にレギュラーの座が回ってきた。

 しかし、ふたを開けてみればウォーナーはロングパスを次々と成功させ、チームの快進撃を支えたのだった。

 戦前の予想では、爆発的な攻撃力を持つラムズがタイタンズを終始圧倒するのではないかと思われた。しかし、実際にはラムズは、タイタンズが用意した複雑なディフェンスの作戦の前に本来のオフェンスが展開できず、思わぬ苦戦を強いられた。相手のエンドゾーン近くまでボールを進めるのだが、肝心のTDがとれない。前半を終わって9-0とリードしたものの、1試合平均33点の得点力を誇るラムズにはむしろ苦しい戦いだったに違いない。この前半の模様をジャパンタイムズのジャック・ギャラガー記者はこう書き表している。

"The Tennessee defense did a great job in the first half of keeping the Titans in the game as the Rams made it into the red zone five times but only had three field goals to show for it."

(first halfとは前半のこと。後半はsecond halfという。keep 〜gameの部分は直訳すれば「タイタンズを試合にとどめた」となる。つまり、「一方的な試合にならず、追いつく可能性の十分ある接戦となった」ということ。made 〜timesは「レッドゾーンに5回進んだ」。レッドゾーンとはフットボール用語で敵陣20ヤード以内のこと。得点圏と考えられている。)

 後半に入ってラムズはようやくTDを1本とることに成功するが、ここからタイタンズの逆襲が始まった。続けざまに2つのTDを奪ってオフェンスのリズムを作る一方で、ラムズのミスをうまく誘うディフェンスで試合の主導権を握っていった。

 これまで大差をつけて試合に勝ってきたラムズはこういう試合展開に慣れていない。その焦りがまたミスを呼ぶ。そして、ついにタイタンズはFGで同点に追いついたのだった。試合の残り時間はわずかに2:12だった。

 終盤にきての予想を上回る大接戦に72,000人を超える大観衆は沸きに沸いた。ラムズがようやく持ち前のオフェンス力を発揮したのはここだった。同点に追いつかれた直後のプレーで、ワーナーがアイザック・ブルース(Isaac Bruce)に73ヤードものロングパスを通し、再び23-16とリードを奪うのである。わずか1発のロンググパスで試合をひっくり返してしまうところにラムズの真骨頂があった。

 ブルースは言う。

"With the score tied, I knew somebody had to make a play. We were ready to go to overtime, but didn't want to if we didn't have to."

(同点となったとき、だれかがいいプレーをしなければいけないと思った。延長戦も覚悟したけど、延長戦にもつれ込まないに越したことはなかった)

 このTDが決まった時点で試合は残り1:54秒しかなかった。しかし、スーパーボウル史上まれに見るこの接戦は最高のクライマックスを用意していたのだった。

 7点差を追うタイタンズはスピーディにオフェンスを展開し、エンドゾーンまであと10ヤードという地点までボールを進める。残り時間はわずか6秒。時間としてはあと1プレーがぎりぎりというところだ。QBスティーヴ・マクネア(Steve McNair)は最後のチャンスをパスに託した。このパスがTDになって、ボーナスポイントのキックが成功すれば延長戦だ。タイタンズが逆転優勝をするにはサドンデス(最初に得点したほうが勝ちとなる)延長戦に持ち込むしかなかった。

 マクネアの投じたパスはケヴィン・ダイソン(Kevin Dyson)の手に収まる。そのままエンドゾーンに飛び込もうとするダイソンに、ラムズのディフェンダー、マイク・ジョーンズ(Mike Jones)がタックルをする。倒れこみながら腕を懸命に伸ばすダイソン。しかし、ボールはエンドゾーンにあと1ヤード届かなかった。この瞬間に試合終了を告げるホイッスルが鳴らされたのである。

 最後のプレーが終わるまで行方の分からない試合展開。あと1ヤードが分けた明暗。スーパーボウル史上語り継がれる名勝負はこうして生まれたのだった。

★スーパーボウルで特筆したいのはそのスケールの大きさだ。スーパーボウルを開催した都市には1週間で300億円の経済効果があるという。世界中から取材の訪れ、NFL が発行する取材証は3,000をゆうに超えるそうだ。

 スーパーボウルは冬でも気温が10度以下にならない場所で行なうというのが原則。この年のアトランタは冬でも比較的温暖な街だ。しかし、この年ばかりは全米が異常な寒波に見舞われた。晴れていれば半袖でも十分なほど暖かいアトランタの街が凍りついたのだった。この異常気象はチームにも影響し、屋外での練習が中止になるハプニングもあった。また、ラムズの本拠地セントルイスから届くはずのチーム資料が大雪のために輸送できず、僕らメディアは不便な思いをしたものだった。

 僕はこのスーパーボウルのあと、学生時代に留学していたピッツバーグに1日立ち寄った。これが悲劇の始まりだった。ピッツバーグからシカゴ経由で成田に帰る予定だったのだが、寒波のためにシカゴ発着の国内線がキャンセルになってしまい、シカゴから成田に向かう飛行機に乗れなくなってしまったのだ。

 帰国した翌日に仕事があった僕は、航空会社に相談し、1時間でも早く日本に着く便に振り替えてもらうことにした。航空会社が用意してくれたルートはなんと!ピッツバーグ→ワシントンDC→フランクフルト→成田というもの。このルートでは何とか予定通りの帰国日に日本につくものの、ワシントンDCで5時間、フランクフルトで7時間の乗り継ぎ待ちを含むものだった。

 かくして僕は地球を一周してスーパーボウルを取材するというまれな経験をすることになったのだった。

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