僕はこれまでにたくさんのインタビューを手がけてきました。本業のジャパンタイムズだけでなく、アメリカンフットボールの専門誌や総合スポーツ誌などでも実にいろんな選手にインタビューをしました。座談会の進行役をしたこともあります。
そのなかで選手の素顔を垣間見たり、独特の理論に触れたりするところにインタビューの醍醐味があるものです。
マラソンの高橋尚子選手にインタビューしたのは、2002年の年末でした。Qちゃんの愛称で国民的人気を誇る彼女は、テレビなどでみる姿そのままのとてもチャーミングな女性でした。インタビュールームに入ると、まずきちんとお辞儀をする姿に好感を持ちました。社会人としては当たり前のことですが、スポーツ界では有名になると急に態度が横柄になる人も少なくないのです。彼女は、そういう意味ではどこにでもいる、普通の女の子という印象でした。
同行したアメリカ人記者が英語で質問をすると「うぉ〜、英語だよ。どうしよ〜」などとおどけてみせる一方で、質問にはひとつひとつ丁寧に、そして真剣に答える姿には人柄のよさを感じました。
ユニークな理論を持っているなと感じたのは貴乃花親方です。インタビューしたのは2003年の春でした。まだ、父親で師匠の二子山親方がご健在だったころのことです。二子山部屋の応接室でお話をうかがいました。
気難しいところもあると聞いていたのですが、実際に会ってみるとそんなこともなく、言葉遣いの丁寧な紳士でした。名前は挙げませんが、相撲界ではマスコミ嫌いで有名な親方もおり、そのイメージが強かった僕には少し意外な印象でした。
貴乃花親方のユニークな理論に触れたのは、「なぜ土俵には女性が上がってはいけないのか」という質問をしたときでした。相撲界が女性に対して門戸を閉ざしている象徴としてつねに取り上げられるのがこの問題です。女性差別ではないかという批判を、貴乃花親方がどうかわすのかに興味を持ちました。そのときの彼の答えはこうだったのです。少し長くなりますが、そのときのテープ起こしの原稿から引用しましょう。
ジャパンタイムズ:女性が土俵に上がることの是非がいろいろと言われていますが、親方のご意見を聞かせてください。
貴乃花:相撲は激しい競技です。ガツンと当たって、首の骨が折れて死んでしまうことがなきにしもあらずの世界なんです。そういう厳しい状況の中に女性を上げることはできない。女性は男が、力士が守るものだというのがわれわれの世界の考え方です。なかなかそれを表現することは伝統的に拒まれている部分もあると思うんです。だから口にしない。女性は非常に高貴な存在であって、戦うのは男だというのが相撲の考え方です。日本的なレディファーストなんです。
「土俵を女人禁制にすることが日本的なレディファーストである」とはなんとも思い切った理論ではないですか!賛否両論あるでしょうが、僕はこのように自分の考えを説明する貴乃花親方はインタビューのし甲斐があると感じました。
さて、僕は現在は日本サッカー協会の会長をつとめる川淵三郎キャプテンに2度インタビューをしたことがあります。正確にいうと2度目は社会人アメリカンフットボール協会会長との対談の進行役だったのですが、そのときに驚くべき体験をしました。
僕が初めて川淵氏をインタビューしたのはJリーグが発足する直前(1993年春)のことでした。サッカー担当ではなかった僕は、それ以降一度も川淵氏を取材する機会はありませんでした。
対談の進行役として川淵氏と2度目の対面をしたのはそれから5〜6年もたったころでしょうか。これはジャパンタイムズではなく、アメリカンフットボール雑誌の仕事だったのですが、あいさつのときに僕はジャパンタイムズの名刺を川淵氏に差し出しました。すると、川淵氏は驚くことにこう言ったのです。
「ああ、君ね。Jリーグが立ち上がるときに(取材に)来てくれたでしょ」と。
何という記憶力でしょう。Jリーグ発足の際には川淵氏は数え切れないほどのインタビューを受けていました。僕はそのなかのひとりに過ぎません。そして、その後何年もの間、一度も川淵氏とは会っていないのです。それなのに名刺を一目見ただけで過去のインタビューを思い出す記憶力は並大抵のものではありません。リーグの長ともなるべき人の能力の高さに改めて舌を巻く思いをしたものです。
次回予告:やっぱり現場だよね〜
取材先に出ると必ず思うことがこれです。次回はスポーツ取材の現場をご紹介しましょう。
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