新聞記事には書いた記者の署名があるものとそうではないものがあります。この違いはどこからくるかご存知ですか?
ひとことに新聞記事といってもその性格はさまざまです。日常で起こっている事故や事件を伝えるのはストレート記事といわれます。これらの記事は記者が実際に取材して書いた記事のほかに、記者会見やプレスリリースで発表されたものを記事化したものがあります。これらは事実を伝えることを使命とした記事で、書き手の意見や詳しい解説は含まれないのが普通です。
飛行機事故などでは専門家の解説が記事に付記されることがありますが、これはストレートニュースとは別立てにするのが一般的です。識者と呼ばれる著名人の意見や詳しい分析を加えた記事なども同じです。
ほかには読み物記事というものがあります。これは、ニュースほど速報性はないものの、より詳しい内容で事件や事故を掘り下げたもので、フィーチャーなどとも言われます。僕の担当分野であるスポーツでいうなら、選手個人にスポットを当てた人物紹介記事などがフィーチャーの代表的なものです。
さて、署名のある記事は署名記事などと呼ばれます。ジャパンタイムズではバイライン記事といっています。署名の有無はその記事の中に記者の視点が入っているかどうかによって決まります。ですから、ストレート記事には署名を入れないのが原則です。解説や分析記事では記者や識者の意見・視点が含まれるので署名記事になります。フィーチャーも記者独自の観点からテーマを決めて書くので、書き手の署名が入ります。
これはなぜでしょう?
新聞は事実を伝えることが第一の使命ですが、同じ事実でも視点を変えればいろんな考え方が可能です。それに対して「記者はこう考える」「このような視点から事件を検証する」といった意見の提示が署名記事の意味するところです。自分の視点や観点を記事という形で提示することに責任を持つために自らの名前を記事に付記するのです。
スポーツでは試合を決める決定的な場面というものが多々あります。それは、ピッチャーの放った不用意な一球かもしれないし、ミッドフィールダーからストライカーへの絶妙なパスかもしれません。僕たちスポーツ記者はこれを逃しては記事を書けません。だから、記事中では記者が考えた「試合のキーポイント」というのが必ず含まれなければなりません。
ところが、観る人によっては試合のキーポイントもさまざまです。「いや、あの一球よりもその後の守備の乱れが影響した」という人もあるでしょう。人によってさまざまに変わる視点のひとつを提示するのも記者の使命なのです。
だからといって、何の根拠もない意見を提示することはできません。記者は自分の視点を裏付けるべく、取材をします。「あの一球」がキーポイントになったと考えたなら、試合後の取材で当のピッチャーや監督に意見を求めます。
それらの取材の中で「あの一球」はキーポイントではなかったと判断したら、視点を改める必要があります。記者は署名記事の中で自分の意見を述べる際には、それが正しいことを客観的に証明できるだけの材料を集めなければなりません。こうすることによって記事に込められる視点が「私見」とは異なるものになるのです。そして、それに対する反論や異論は受ける用意がありますという覚悟が署名には込められているのです。
次回予告:邦字紙と英字紙の記事の違い
日本語の新聞(邦字紙)と英字新聞では記事の書き方がまったく違います。ジャーナリズムが育成されてきた環境が異なるためです。では、どのような違いがあるのでしょうか。これを知っているのと知らないのでは英文記事から感じる難易度が変わってきます。次回はこの違いについてお話します。
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