英字新聞で働いていると、「英文記事は難しい」とよく言われます。確かに慣れていないと英字新聞を読みこなすのは難しいかもしれません。
英字新聞が難しいと感じるのにはいくつか理由があります。もっとも大きな問題は使われている単語が分からないということでしょう。英字新聞で使われている英単語は時事英語がほとんどで、学校で習った単語だけでは読みこなせないことが少なくありません。また、同じ単語でも学校で習ったものとは違う意味で用いられる場合もあります。学校時代に英語が得意だった人でも英字新聞を読むのには苦労をするのはこれが理由の一つです。残念ながら、こういった単語やイディオムは一つ一つを覚えていくしか方法はありません。
英字新聞が難しいと思われるもう一つの理由として、英文記事が日本語の記事とはスタイルがまったく異なることがあげられます。では、具体的にはどう違うのでしょう?
邦字紙、つまり日本の新聞の記事は大まかに分類すると「前文」、「本記」、「雑感」の3編に分けることができます。
「前文」は、たとえばスポーツの記事なら「いつ、どこで、どんな試合が行なわれ、どちらが○対○で勝った」という記事のあらすじをまとめたものです。先週まで行なわれていた相撲なら「大相撲九州場所は26日、福岡国際センターで千秋楽を迎え、横綱朝青龍が大関千代大海を破って全勝優勝した」といったものが前文となります。
これに対し、「本記」は試合の内容を詳しく述べたもので、記事の「本編」とも言うべきものです。先にあげた相撲の例で言うなら、朝青龍の取り組みがもう少し詳しく述べられるとともに、ほかの主な取り組みの詳細がここで記されます。
前文と本記は事実だけを取り扱う、いわゆるストレートニュースです。事実を伝えるのがニュースの使命だとすれば記事の役割はこれで全てを果たしていることになります。しかし、ストレートニュースだけでは記事が無味乾燥なものになってしまうのもまた事実です。特にスポーツでは、勝敗を決めるにいたった背景や選手のエピソードなどは記事をより面白くするために欠かせない要素です。しかし、これらの内容はストレートニュースの性格を持つ前文と本記だけでは語ることができません。
これを補うものが「雑感」です。雑感では隠れたエピソードや裏話などが披露されます。たとえば、前日に負けた力士が親方の的確なアドバイスで翌日には見違えるような相撲で勝ったとしましょう。どんなアドバイスがあったのか、それがどのように相撲に影響を与えたのかといった情報を伝えるのが雑感です。実はこの雑感こそが記者の取材力によって差の出る記事の命なのです。
最近では邦字紙でも雑感に力を入れるようになり、前文・本記・雑感という基本パターンが崩れ、いきなり雑感から記事が始まるというものも増えてきました。これも、雑感こそが記事を面白くする最大の要素で、ここに記事の、ひいては新聞の差が現れるからです。より読みやすく書かれているスポーツ新聞の記事は8割以上が雑感だといってもいいでしょう。
さて、英文記事には前文・本記・雑感という区別はありません。これらは全て一つの記事の中に含まれます。一つの記事の中にストレートニュースと雑感をうまく織り交ぜることが英文記事を書く際に必要とされます。このためか英字新聞では記事のことをarticleとは呼ばず、storyと呼びます。
英文記事では邦字新聞なら前文で記す「場所、日時」はストーリーの中にさりげなく織り込みます。ですから読者は記事というよりも、まさに一つの物語を読んでいるような感覚になるのです。
こういった英字紙と邦字紙の記事のスタイルの違いが分かっていれば、少し英字新聞を読むのがやさしくなると思います。お試しあれ。
次回予告:いい文とはどんな文章?
最近では文章の書き方を指導したハウツー本が数多く出版されています。それだけ、多くの人がきちんとした文章を書くということに関心を持っているのでしょう。ところで、いい文章とはどんな文章のことを言うのでしょう?
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