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記者ほど素敵な商売はない

By Hiroshi Ikezawa / 生沢 浩

ジャパンタイムズ運動部記者、アメリカンフットボールライター、TV解説者のさまざまな顔を持つ生沢浩が15年間の記者生活のなかで見聞きしたこと、思ったことなどを紹介するコラムです。
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Hiroshi Ikezawa / 生沢 浩

Vol. 39 : 夏目漱石考

 前回に引き続き今週も本の話を続けます。

 皆さんはどんな作家がお好きですか。僕はジャンルによっても違いますが、歴史小説ならば山岡荘八、吉川英治、池波正太郎、ミステリーなら横山秀夫、東野圭吾が好きです。そして、ジャンルを問わず最も好きな作家を挙げろといわれれば迷わず夏目漱石と答えます。

 夏目漱石の書いたものは小説のみならず、評論や論文、手紙にいたるまで出版されているものはほとんど全て読んだと思います。でも、やはり漱石は小説が面白いです。

 最も好きなのは『三四郎』で、これは毎年必ず1回読みます。最初に読んだのは高校生のころでしたが、自分が年を経るにつれて小説の面白さが変わってくるのが分かります。

 熊本から上京して来た主人公の三四郎が今まで知らなかった世界の人々と交わり、その中で淡い恋に悩む小説です。10代のころは三四郎の恋物語という観点から読みましたが、三四郎と同じ大学生になってみると小説で描かれている「教養人」というものに興味を持つようになりました。この小説における教養人は学問の世界に生きる人々で、世間とは少し距離のおいた生活を送ります。

 教養人は漱石の小説にはよく出てきます。今で言う大学院生や研究生、大学教授のようなものでしょうか。研究や思想に生きる人たちで、漱石の生きた明治・大正の時代には一つのステータスだったのかもしれません。この時代の教養人はいわゆる定職についているわけではありません。生活の糧は親や兄弟の居候になることで得たり、または親が残した財産を食いつぶしながら悠々自適に暮らします。あくせく働く労働者たちとは一線を画した人生を送っている教養人ですが、彼らにも生活の不安という悩みがあります。この悩みについて考えながら読むようになったのは、僕自身があくせく働く社会人になってからでしょうか。

 三四郎は里美美禰子(みねこ)という女性に恋をします。美禰子も三四郎に気がありそうなそぶりを見せるのですが、物語の最後に突如登場した資産家と結婚をしてしまいます。そして、美禰子が三四郎に謎のように投げかける「迷える羊(ストレイシープ)」という聖書の一節。なぜ三四郎と美禰子は結ばれなかったのか。ストレイシープとは誰を指している言葉なのか。三四郎は教養人となるのか、それとも郷里熊本の生活に戻っていくのか。これらの疑問は不思議なことに読むたびに違ってきます。それだけの奥深さが漱石の小説にはあるのです。

 僕が文章を書くことが好きになったのも漱石の小説がきっかけでした。高校3年生のときに国語の授業で『こころ』を勉強したことがあります。僕の高校では教科書に掲載されている小説の一部分だけを読むのではなく、約1ヵ月かけて小説の全文を勉強しました。この授業は今でもよく覚えています。

 僕のクラスを担当していた先生は、小説の内容ばかりでなく漱石が文章に使っているテクニックなどを丁寧に解説してくれました。たとえば、漱石は「簡単に」というべきところをあえて「単簡に」と文字をひっくり返して使います。先生いわく、これは漱石や森鴎外のような文章のエキスパートにのみ許された言葉遊びなのだそうです。一般人が使えば明らかに間違いですが、文章テクニックを知り尽くした彼らが使うことで言葉に遊びが生まれるのです。しゃれのひとつなのでしょうか。

 そういえば「しゃれ」は漢字で書くと「洒落」と書きますが、漱石はあえてこれに「しゃらく」というルビを振ります。これも言葉遊びですね。

 こういった文章テクニックを踏まえながら読むと漱石の文章はまた違った面白さがあります。まじめな文体の中に、ちょっとしたユーモアや皮肉が込められているのも漱石の文章のすばらしいところです。

 小説を読む際に文章テクニックを気にしながら読むようになったのは、このときの『こころ』の授業がきっかけでした。だから僕は内容が面白い小説はもちろんですが、文章テクニックが駆使されている小説も大好きです。そして、こういう読み方をしているうちにいつの間にか自分でも文章を書くのが好きになってしまったのです。

次回予告:NFL解説の面白さ・難しさ

 いよいよNFLはプレーオフに突入します。それにちなみ、僕がテレビでNFLの試合解説をするときの話をしましょう。来週は正月休みをいただきます。次回は1月9日更新分でお目にかかります。今年もコラムを愛読していただき、ありがとうございました。皆さん、よいお年を。

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