日本語は省略の多い言語なのだそうです。もともと、漢字を使う言語ですから、少ない文字数で多くの意味を表現する言葉なのですが、さらにそれを省略してしまうところに言語としての特徴があるのだと主張する学者がいます。
確かに私たちの周りには省略語がはんらんしていますね。「ワンセグ」とは「ワンセグメント」の略ですし、「キムタク」といえば木村拓哉さんのことです。本来、省略後は口語で多く使われるもので、活字にはなじまないものなのですが、ワンセグやキムタクはすでに市民権を得ていて、新聞や雑誌でもそのまま使われています。
新聞で使われる言葉にも省略語が多くあります。今月末に行なわれる「参院選」は「参議院議員選挙」、「文科省」は「文部科学省」を縮めたものです。
日本語の省略後には言葉の前半と後半の一部を取り出してくっつけるという特徴があります。「キムラタクヤ」の苗字の「キム」と名前の「タク」をくっつけたものが「キムタク」ですね。僕の好きなアメリカンフットボールは「アメフト」、「アメフット」などと略されます(関西では「アメリカン」という言い方が一般的だとか。また、「アメフ」という略し方もありますが、個人的に僕は好きではありません)。
英語ではこのような略しかたはまずないといっていいでしょう。俳優のBrad Pittさんを日本では「ブラピ」などと呼びますが、英語ではまず通じません。同じく、「リモコン=リモートコントローラー」、「エアコン=エアーコンディショナー」なども英語では口語であっても通じません。カタカナ言葉なのでうっかりする英語で使ってしまうことが僕にもありますが、そのたびにネイティブに「?」という顔をされて赤面してしまうのがオチです。
もちろん、英語にも言葉を省略する方法はあります。それは頭文字をつなげることです。Very Important PersonはVIP、Most Valuable PlayerはMVPと略されることはご存じですね。これは人の名前にも使われます。たとえば、NFLでLaDainian Tomlinsonという選手がいますが、彼はファンやチームメートからは「LT」と呼ばれています。ほかにもMLB=Major League Baseball、MBA=Master of Business Administration など、日常でよく目にする言葉もたくさんあります。
英語の略語には便利な使い方があります。サンドイッチやハンバーガーで人気の「ベーコンレタス&トマト」は英語ではBacon, Lettuce and Tomatoといいますが、日本人には発音しにくく、英語圏のお店では通じないことも少なくありません。そういうときは頭文字をとってBLTと言えばOKです。お店によっては最初からメニューにBLTと表記されている場合もあります。ちなみにオレンジジュースは「OJ」で通じます。
気を付けたいのは略語の読み方です。MVPやBLTはさすがにM-V-P、B-L-Tと一文字ずつ発音しますから問題ないのですが、VIPをよく「ヴィップ」というのを耳にしませんか?「ヴィップ待遇」などという言葉も聴かれます。確かにVIPは子音と母音がうまく組み合わさっているので、ついそのまま読みたくなる気持ちも分かります。しかし、英語ではこのように使うことはほとんどありません(皆無とは言いません)。基本的に省略後はその頭文字を一つずつ発音するものなのです。日本でよくヴィップという言葉を使っている人は、海外に行ったときは気を付けてください。
次回予告:翻訳は難しい
ジャパンタイムズに入社すると記者はまず翻訳を通して英文記事の書き方のいろはを学びます。実はこれがとても難しいのです。僕は今でも日本語を英語に翻訳するのが苦手です。なぜ翻訳は難しいのでしょうか。
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