15日に閉幕したアメリカンフットボールのW杯は、アメリカ、カナダに次ぐフットボール先進国との自負がある日本が主催したビッグイベントでした。僕はこの大会に早くから関わり、大会中もほぼ全日程を取材しました。記者としての充実した活動を送った一方で、いろんな反省も生まれたのです。
僕にとってのW杯取材が始まったのは日本代表チームの結成から壮行試合を行なった4月ごろでした。そして、直前には公式プログラムの英語版記事作成、公式ホームページへの英語版記事寄稿と、本戦以外にも大会に携わってきました。
大会が始まる前の記者としての仕事は参加国の情報を集めることでした。僕の場合は公式プログラムと公式ホームページに各国を紹介する記事を書く仕事があったため、それらへの下調べの意味も兼ねていました。ところが、この情報収集がとても難しかったのです。日本チームについては普段から取材しているので情報はたくさんありますし、アメリカチームも有名選手が含まれていたのでそれほど苦労はしませんでした。しかし、スウェーデンやフランス、韓国といった国の代表チームの情報が実に乏しかったのです。
頼みとなるのはインターネットでしたが、スウェーデンやフランスは公式ホームページが母国語で書かれているので、フランス語やスウェーデン語のできない僕には全くのお手上げ。仕方がないので、NFLの下部組織であるNFLヨーロッパに参加したことのある選手の情報を集めたり、過去のW杯に参戦した選手の実績を調べて記事を作成するしかなかったのです。
プログラムの各国紹介は専門誌の記者が書いた日本語の記事を翻訳するものでした。翻訳という作業が苦手な僕にとってはこれも苦労の多い仕事でした。
本戦が始まるともちろん仕事の中心は試合の取材です。これは日常的にしているものなので僕にとっては楽な仕事です。ただし、1日に2試合が組まれていた日は取材→記事作成→次の試合の取材→もう一つの記事作成というタイトなスケジュールになります。
試合中はスコアをつけながら取材をします。1プレーごとに誰がボールを持ったのか、何ヤードのゲインになったのか、タックルを決めたのは誰かなどをメモします。その一方で、試合中に気が付いたことを書き留めておきます。このときのメモが試合後に行なわれる記者会見での質問になったり、記事を書く上での重要なポイントとなります。
試合の情勢が見えてくると、今度はその試合をどのように描写するかを考えます。これが記事を書く作業で最も大切なことになります。勝敗を分けたポイント、天候の影響、チームにとって試合の結果が持つ意味(決勝ラウンド進出、予選敗退など)などすべてを網羅しなければいけません。
試合後の記者会見は各チーム15分ほど行なわれました。ここでも記者が備えておくべきテクニックがあります。それは、会見内容をすばやくメモするということです。会見に臨む選手やコーチはこちらの都合など考えずに早口でしゃべります。記者はそれをできるだけ正確にメモしなければいけません。これが意外に難しいのです。
メモは当然、後から見直すのですからそのときに読めるような文字で書く必要があります。でも、急いでいるときは正しい字を書こうとするほど変な文字になってしまうもの。自分で書いたものなのに、後で読み直したときにどうにも判読できない字が出てきます。
ジャパンタイムズでは英語で記事を書きますから英語のコメントはできるだけ英語でメモを取ります。英語を聞き取りながらメモを取るのも難しく、これはヒアリングの能力とは別にやはり訓練や慣れが必要です。書くことに意識を集中すると次の言葉が聞き取れなくなってしまうからです。
今回のW杯で僕が一番苦労したのはこの会見でのメモとりでした。最近では取材に出ることが少なくなってしまった僕は、このテクニックがすっかりさび付いてしまっていたのです。これはわれながら驚きでした。W杯で最も反省すべきことです。早速、大会が終わった後に聞き取りの特訓を行なったことは言うまでもありません。以前から楽しみにしていたW杯取材ですが、僕にとっては意外なところで反省をさせられた大会でもあったのです。
次回予告:記事を書いてみませんか
最近はブログやメールなどで文章を書く機会も増えました。そこで提案。皆さんも記事を書いてみませんか?日常生活で思ったこと、感じたこと、自分の趣味の紹介など何でもいいです。誰かに自分の考えを伝える文章を書いてみましょう。次回からは何度かに渡って記事の書き方についてお話します。
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