文章がうまくなるための最善の方法が何かと聞かれると、僕は「推敲だ」と答えます。文章はたくさん書くほど上手になるといわれます。これは事実だと思います。しかし、ただ書くだけではなかなかうまくなりません。一度書いた文章をじっくりと読み、手間をいとわずに何度でも書き直すことが文章上達の近道なのです。
文章を書き上げてから推敲するまでは少し時間を置いたほうがいいでしょう。書き上げた直後というのは、達成感も手伝って文章の粗い部分には気付かない場合が少なくありません。少し頭を冷やしてから改めて文章を読み直したほうが間違いも見つけやすくなります。
僕も文章を書き上げてから推敲するまでには時間を置くようにしています。新聞には毎日締め切りがありますから、ジャパンタイムズで記事を書く場合にはあまり時間をかけて推敲するわけにはいきません。それでも、雑誌やインターネットに寄稿するときにはできるだけ締め切りの前日までに書き上げておき、1日置いてから改めて読み直しつつ推敲をします。
それでは実際に推敲をしていきます。今回はメモ1)の文章を例に取り上げます。
メモ1)の文章
「僕の携帯電話の使い方はちょっと人と変わっているかもしれない。通話やメールはもちろんだが、それ以上にミュージックプレーヤーとして使用するからだ。と言っても、1.電車の中で音楽を聴くことはほとんどない。2.僕の用途は動画再生が主だ。
僕は週に1〜2度ジムに通って汗を流すが、マシンでランニングをする際に動画を見ながら走ることにしている。こうすると長く退屈なトレーニングも楽しいものになるからだ。
ところが、動画は大きな3.要領のメモリを必要とする。僕の携帯電話のメモリカードは512メガバイトが限界で、これではたくさんの動画を保存することができない。そこで、4.携帯電話を買い換えたいと思うようになった。」
まず、1.の部分ですが、主語がありません。文脈から言って「電車の中で音楽を聴く」のは「僕」であることは明確ですが、「人と変わっているかもしれない」使い方をすると言う以上は主語を明記した方がいいかもしれません。そこで、「電車の」の前に「僕は」を入れましょう。
2.はこのままでもいいですが、文章の中で強調したいのは「通話やメールという本来の使い方よりも動画再生をするほうが多い」ということですから、「動画再生」が「主」だという言い回しよりも、「主(な用途)」は「動画再生だ」としたほうが強調したい内容が明らかになります。そこでここは、「僕の主な携帯電話の用途は動画再生だ」と書き直します。
3.は誤字です。この場合はメモリの量のことを言っていますから「容量」でなければいけません。4.では、携帯電話を買い換えるということがすなわちより大きなメモリ容量の携帯電話を手に入れるということだということが明確ではありません。そこで、「携帯電話」の前に「より容量の大きいメモリを搭載できる」という言葉を挿入し、「携帯電話を」を「携帯電話に」と書き換えます。これで意味がよりはっきりとしたはずです。
では、推敲した後の文を改めて書いてみましょう。書き直した個所には下線を引いてあります。
「僕の携帯電話の使い方はちょっと人と変わっているかもしれない。通話やメールはもちろんだが、それ以上にミュージックプレーヤーとして使用するからだ。と言っても、僕は電車の中で音楽を聴くことはほとんどない。僕の主な携帯電話の用途は動画再生だ。
僕は週に1〜2度ジムに通って汗を流すが、マシンでランニングをする際に動画を見ながら走ることにしている。こうすると長く退屈なトレーニングも楽しいものになるからだ。
ところが、動画は大きな容量のメモリを必要とする。僕の携帯電話のメモリカードは512メガバイトが限界で、これではたくさんの動画を保存することができない。そこで、より容量の大きいメモリを搭載できる携帯電話に買い換えたいと思うようになった。」
どうですか。推敲後の文章のほうがより内容がはっきりしているということがお分かりになると思います。次回はメモ2)以下を推敲していきます。
次回予告:文章の推敲 その2
引き続き、文章を推敲していきます。無理に書き換える必要はありませんが、気になる部分は徹底的に考えましょう。これが推敲の本来の目的です。
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