アメリカのプロフットボールリーグNFLが開幕してからひと月がたちました。各チーム16試合を戦うレギュラーシーズンもすでに4分の1が消化したことになります。その中で、今年NFL17年目を迎える一人のQBが注目を集めています。グリーンベイ・パッカーズのQBブレット・ファーヴがその人です。
グリーンベイというのはウィスコンシン州にある小さな街ですが、そこに本拠地を置くパッカーズは伝統のあるチームで全米で人気があります。そのパッカーズを象徴する選手がファーヴなのです。
ファーヴが注目を集めているのは今年に入ってから数々のNFL記録を打ち立てているからです。まず、シーズンの第2週(9月16日)ではQBとして通算最多となる149勝目を挙げました。そして、第4週(9月30日)には、破られることのないだろうと言われていた通算TD数420を更新、10月8日現在で423にまで記録を伸ばしています。80年以上の歴史を持つNFLでリーグMVPに3度も選出されているのはファーヴだけです。
しかし、ファーヴのスゴさはこれだけではありません。彼の本当の価値はその鉄人ぶりにあります。ファーヴは1992年9月20日から1試合も欠場することなく、現在に至るまで全試合に先発出場しているのです。その数は242試合にも上り、これもQBとしてはNFLの記録です。
アメリカンフットボールはコンタクトスポーツです。つまり、激しくぶつかり合うのが当たり前の競技なのです。もちろん、ケガはつきもので選手の平均寿命は4〜5年という短さです。そのフットボールにおいて15年もの間欠場することなく出場するというのは並大抵のことではありません。
大きな故障がないことはもちろんですが、実力も高いレベルで維持していないと起用されることもないので、ファーヴは長期にわたってNFLでトップレベルのQBでい続けていることが分かると思います。
15年もの間、ファーヴがまったくケガをしなかったわけではありません。ある年はシーズン半ばに利き手である右手の親指を骨折しながら試合出場を続けたことがありました。ケガを押して出場することも人並みはずれているのですが、それでもきちんといい結果を残すところにファーヴの超人的な能力が見て取れます。
ファーヴのNFL人生は順風満帆ではありませんでした。若いころにはアルコール依存症に苦しみ、また、痛み止めの薬を多用したために薬物中毒にもかかりました。
2003年には最愛の父を心臓麻痺で亡くします。しかし、ファーヴはそのわずか二日後には試合に出場し、彼のキャリアの中でもベストにひとつに数えられるパフォーマンスを披露したのです。
翌年には妻のディアナが乳がんに侵されていることがわかり、そのわずか3週間後にはディアナ夫人の弟、つまりファーヴにとっては義理の弟が交通事故で死亡するという悲運にも見舞われました。その都度ファーヴは超人的なハートで試合に出場し続けたのです。
たかがスポーツにそこまで頑張ることはないだろうと思う人もいるでしょう。しかし、ファーヴにとってはNFLでプレーすることが彼の人生そのものなのです。現役を続行できる力を持っている限りフィールドでファンやチームのためにプレーすることこそが彼の存在意義なのです。
スポーツ選手はみな多かれ少なかれファーヴのような気持ちを持ってプレーしています。だからこそ見る人に感動を与えることができるのです。
次回予告:そんなんだから勝てないんだよ!
今回はファーヴの強靭(きょうじん)なメンタリティを紹介しました。全部の選手がこういった強い精神力を持っているわけではありません。次回は、僕が「情けない」と思ったスポーツ選手のメンタリティのお話をします。
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