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未知の世界に飛び込んで、文化的背景の異なる人々と出会い、いつかその人たちのことを書いてみたい——。幼いころからそんな夢を抱いていた著者が、16歳で単身アメリカの高校へ留学。英語がほとんど通じず苦労したり、文化の違いにショックを受けつつも、さまざまな人に助けられながら卒業するまでの3年間をユーモラスにつづった青春記。

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留学日記[高校編]

By Kana Ishiguro / 石黒 加奈

16歳で単身アメリカ留学。わからないことだらけのアメリカでの生活を振り返る石黒加奈の「ちょびつき」留学日記・高校編
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Kana Ishiguro / 石黒 加奈

Vol. 26 : 卒業式(最終回)

私のちょびついた高校留学もいよいよ終わりに近づきました。
今日は、学校のキャンパスの隅にある、小さな森にいすを並べて、卒業式が行われます。男の子は白いジャケットを着て、女の子は白いドレスの胸に小さな赤いバラのつぼみをつけています。

卒業生一人ひとりが、Diploma と呼ばれる卒業証書を校長先生から受け取り握手をすると、家族や先生や、他の生徒から喚声や拍手があがりました。

私の両親も日本から駆けつけてくれ、ホストファミリーも式に出席してくれました。

両親の顔を見ていると、母が毎日のように手紙をくれた一方で、父の仕事を助けながら貯金をして学費を出してくれたこと、高校2年のときに、その母が突然手術することになり父が涙ながらに電話してきたこと、などが思い出されて、卒業証書は、家族や友だちのサポートがあったからこそ頂けたのだということが改めて分かりました。

6月のさわやかな気候の中で行われるせいもあって、アメリカの卒業式にはしんみりした雰囲気はないのですが、私は、ある意味では家族より多く、苦しみを分かち合った友だちとの別れを思うと、周りの明るい雰囲気とは相反する悲しい気持ちになりました。

3年の間に、いろいろな場所でいろいろな出会いがあって、大事な友だちがたくさんできました。校長先生のスピーチを聞きながら、そんな友だちのことを思い出しているうちに、自分の心がこれから、いろいろな場所に引き裂かれていくような気がしたのです。

アメリカの高校で勉強していた間、私の心の半分は、日本の家族や友だちのところにありました。そして今度は、高校で出会った友だちのところにも、心の一部を残して、先へ進まなければならないように思えたのです。留学や旅行などで、出会いと別れを経験した人はみんな、どこかに自分の心のかけらを置いてきているはずです。

卒業式が終わってから、荷物が運び出されてがらんとした部屋に戻ると、ルームメイトのエレイナからの手紙が机の上に置いてありました。

彼女の描いた水彩画の表紙に挟んである手紙には
「サヨナラを言いたくないから、先に行くよ」
と書いてありました。

「あたしの両親は離婚しているから、子どものころから、お父さんの家へ行ったり、お母さんの家へ行ったりで家庭という家庭がなかったけど、カナと一緒に住んだこの部屋が、あたしが初めて感じた「家庭」だった。カナが、夜中まで辞書を引いて本を読んだり、お箸を使ってパスタを食べたり、洗濯ものをたたんだりする姿を見るとき、あたしは、自分が『おうち』に帰って来たって感じた。カナは、猫みたいにキレイ好きでいつも石鹸のにおいがして、あたしが眠れないときは日本語の子守り歌を歌ってくれた。あたしは、この生活がずっと続けばいいって、何度も思った。

カナが、ママの家に遊びに来たとき作ってくれた和食、とっても美味しかった。カナは、あなたの両親は、あなたを愛していると言ったことがないけど、彼らがあたなを愛しているとわかる、と言ったでしょう? あたしが、『どうして? どうやって分かるの?』と聞いたら、だって、お母さんは、いつも美味しいご飯を作ってくれるから、と言ったでしょう? それが日本の文化だと言ったでしょう? 言わなくても態度で示せる文化だと言ったでしょう? あなたの料理を食べたとき、その意味があたしにも分かったんだよ」

そして、その手紙の横には彼女の大事なネックレスと香水が置いてありました。
「このネックレスは、ママが昔あたしにくれたもの。『あなたは強いから、外は銀、中は光っているから、水晶』ってくれたもの。でも、このネックレスは、こんな遠い国まで留学してきた、本当に強いあなたがしたほうが合っているから、あなたに贈ります」

エレイナの手紙を手に、重いスーツケースを引きずって両親と学校を後にするときに、なぜか、あの水泳の試験のことを考えていました。

水泳の試験が留学生活の初日にあったのは、とてもシンボリックなことでした。留学とは、赤ちゃんがプールに投げ込まれるようなものです。

私は「さあ、どうする?」という、未知の世界から挑戦状を突きつけられたわけです。

人は、本気を出さなければいけない機会に巡り遭うことは、案外と難しいものです。私は、やっぱり自分が本気を出すところを見たかった。鼻水を垂らしながら、髪を振り乱しながらでも走らなければいけない自分になれる環境が欲しかったんだと思います。

16歳のときに分かれ道に立つ「留学」という標識を見て、これが「自分の可能性を試す道」だと潜在意識の中で考えていたのだろうと思います。

そして、そういった自分探しの旅をしている私を、エレイナのような友だちや、アネット先生は、鏡のように映し出してくれたのです。

終わり

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