「ちょびつき留学日記・高校編」の連載終了後に、たくさんの方々からお便りをいただき、本当にありがとうございました。筆者自身はもともと、大学編も書く気マンマンだったのですが、みなさんからの温かいアンコールのお陰で堂々と、編集の伊藤さんに「ほらほら、やっぱり大学編もやりましょー」と言うことができました(笑)。
では、さっそく、石黒加奈の「ちょびつき留学日記・大学編」の、はじまり、はじまりぃ〜。
私の大学時代は、難しいNYタイムズを読み(あの頃がいちばん新聞を読んでいたな……。←危険な発言。ふふふ)スペンサーとシェークスピアの韻の踏み方の違いを研究するなど、文学部の学生として学業に励んだ日々でありました。
英語ができないのに、文学部なんかに入ってついて行けたのか? 読者のみなさまも、呆れていらっしゃることと思います。お察しの通りで、私の大学生活は、文学を専攻したせいで、ロッキーと水戸黄門のテーマソング(タリラー、タリラー♪ってのと、人生楽ありゃ、苦もあるさ、ってやつね♪)が交互に頭の中で流れるほど、過酷なものとなってしまいました。
けれども、私にとって文学は、単なる一教科では終わらず、まさしく生活の一部ともなっていきました。今回はそのきっかけとなった出来事の1つを書いてみたいと思います。
私の通っていたコロンビア大学は、マンハッタンのアップタウンにあって、一般的なNYのイメージより落ち着いた雰囲気をかもし出しています。私が住んでいたアパートは、大学のキャンパスから6ブロックだけ離れたところにありました。その建物の入り口には、ジョーという背の高い黒人のドアマンがいて、私は、このジョーと大の仲良しでした(大学の回りの寮やビルには、安全のため、だいたいどこでもドアマンがいます)。
ジョーと友だちになったきっかけは、彼がドアマンの仕事をしながら、少しでも時間があくと、いつもハード・カバーのノートに詩を書いているのを知ったからです。
"Hey, Kana, what courses are you taking this semester?"
(加奈ちゃん、今学期は、どんなクラス取ってるの?)
"Well, Shakespeare 1, American Literature 1, Greek Mythology…"
(えーと、シェークスピア1と、アメリカ文学1と、ギリシャ神話と……)
などという、会話を毎学期繰り返していました。
"Shakespeare's a piece of cake, man."
(シェークスピアなんて、簡単じゃん)
とジョーに言われて、「それなら、あたしの宿題をやっちくりぃー」と騒いで、教科書を見せると、ジョーは詩人なので、すらすらシェークスピアを読み上げます。さすが、ダウンタウンのPoetry Reading(詩の発表会)なんかで、いつも発表しているだけのことはあるねぇ、と感心しながら、シェークスピアのソネット(14行の詩)の解釈なんかを教えてもらっては、ラッキー! と喜んでいました。
そのうちジョーは、
"You can write poetry yourself."
(加奈ちゃんも詩を書いてみれば?)
と言いました。
"Me? Poetry? No way, man. I can't even put a sentence together!"
(あたしが、詩? ダメダメ。英語ってなると、たった1行でも、間違いなく書けやしないんだから。)
ジョーは、そんな私の言葉はまったく耳に入らなかったかのように
"OK, I will give you a theme each week. We can both write on the same theme and then compare, what do you say?"
(じゃあ、俺が毎週、テーマを決めて渡すから、お互い、そのテーマで書いてみて、それぞれ読み合うっていうのは、どう?)
こうして、毎週ジョーからテーマを与えられた私は、大学の課題をこなし、本を読み、そして論文を書く合間に、英語で自分の詩を書くということを始めたのでした。ジョーは、私と同じぐらいの年に見えるのに、ほんとうは、40歳を過ぎていて、たいへん熟練した書き手でした。キャンパス以外の場所で、こうして、詩に親しむ場所を与えられた私は、文学の美しさとやらに少しずつ(ほーんの少しずつね)目覚めていったのでありました。
つづく。
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