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「ちょびつき留学英語日記」好評発売中!
未知の世界に飛び込んで、文化的背景の異なる人々と出会い、いつかその人たちのことを書いてみたい——。幼いころからそんな夢を抱いていた著者が、16歳で単身アメリカの高校へ留学。英語がほとんど通じず苦労したり、文化の違いにショックを受けつつも、さまざまな人に助けられながら卒業するまでの3年間をユーモラスにつづった青春記。

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留学日記[大学編]

By Kana Ishiguro / 石黒 加奈

16歳で単身アメリカ留学後、高校を卒業し、コロンビア大学に入学した筆者がトラブル続きの留学生活を振り返る「ちょびつき」留学日記・大学編
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Kana Ishiguro / 石黒 加奈

Vol. 21 : マイ・ホームカミング

私は、大学在学中に数々の名作を読む機会を与えられて、ますます文学が好きになりました。好きになっただけでなく、それらの作品のおかげで、自分の人生についてさまざまなことを考えるようになりました。

その中で、今も私の人生に大きな影響を与えているのは、ギリシャ古典であるホメロスの『オデュッセイア』です。

『オデュッセイア』は、主人公のオデュッセウスが、10年間のトロイ戦争(このときは、脇役)の後、凱旋の帰途難破し、10年の漂流生活を経て、帰郷する話(Nostos poem)とされています。

トロイの木馬をはじめ、有名なエピソードが多々織り込まれた『イリアス(トロイ戦争の話)』に比べて、オデュッセウス帰郷のストーリーは、いささか地味ではありますが、文学史上、たくさんの読者に共感され続けてきた大作です。

紀元前の作品が今日まで愛読されてきた訳は、きっと、オデュッセウスというキャラクターが、だれもが持っている故郷への思い——つねにそこへ帰りたいと思いながら、そうできない難しさ——を象徴しているからだと思います。

私は大学を卒業してすぐに帰国しましたが、帰国後もなぜか、どこかへ帰りたいという気持ちが、いつも心にあるような気がしていました。そのつかみどころのない感情がどこから来るのかを知りたくて、自分にとって"home"(故郷)とはなんだろうという思いを巡らせることが何度もありました。

あるときは、"home"は、自分の帰属する場所、すなわち、自分の居場所ではないかと考えました。自分の居場所を見つけたい気持ちが、望郷の念に繋がっているのだと思ったのです。

また、自分の"home"は、人だろうか、時間だろうか、それとも、思い出だろうか、香りだろうか、だれかの声だろうか? "home"は同時にたくさんの場所に存在するのだろうか? などということをずっと考えていました。

アメリカを離れる数日前に、高校のルーム・メイトで親友のエレイナと電話で話しました。

"Why are you leaving so soon?"
(どうして、そんな急に帰ってしまうの)
と聞かれたので、
"Maybe I got a little tired of being a foreigner."
(もしかしたら、外国人でいることに、少し疲れたかもしれない)
と、私は答えました。すると、彼女が言うのです。

"You will be a foreigner wherever you go, Kana."
(あなたは、どこへ行っても、外国人だわ)

そう、彼女が言ったのを今でもよく覚えています。そのとき、私にはその意味がわかりませんでした。

でも、あれから何年もかかって、ようやく理解できたような気がします。個人特有の経験や知識は、それを分かち合う相手を見つけようしない限り、その人を孤独にする壁や隙間になってしまいます。エレイナが言おうとしたのは、そのことに気づいて、自分から人に働きかけないかぎり、私の"home"は見つからない、ということだったのだと思います。

新しい体験をして自分が変化していくにつれ、"home"も常に変わっていくものです。そういった中で理解者を得るためには、変化する自分をまず自分自身が認識し、そのことを伝えようとする姿勢が大切だと考えるようになりました。

思えば、つたない英語しか話せなかった留学時代、遠い島国から来たまったくバックグランドの違う女の子を一生懸命理解してくれようとした人たち、そして彼らに必死に自分の考えていることを伝えようとしていた私がいました。そのときは気づくことができませんでしたが、そんな彼らとの関係こそが、私の"home"だったのです。

そして今、私の留学体験について綴った日記を読んでくださったり、メールやお手紙で応援の言葉をくださった方々との出逢いに"home"を感じています。

"God, I am so damn lucky!"
(信じられないぐらい運がいい!)

と、どんな感謝しても、感謝し足りない気持ちです。

ちょびつき留学日記大学編 完

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