死闘(?)を繰り広げた「恐怖の水泳の試験」の後に待ち受けていたのは、心安らぐひととき。・・・・・・なんてことあるわけがないよね。ここは、アメリカ、異国の地だ!
同じ日の午後イチで招集をかけられた場所は、図書館の一角にある「コンピュータ・ルーム」。四角いマッキントッシュがずらっと並んでいます。
今年は2003年で、私が渡米したのは1990年ですから、これは、たった10数年前の話ですが、冗談抜きで、私は、そのときまでコンピュータを見たことがありませんでした(ワープロしか見たことがなかった)。ということは、もちろん、キーボードに触れたこともなかったわけで、タイプの仕方なんて、ゼンゼン知らなかったし、必要だとも思っていなかったのです。
でも、毎週のように論文なるものを提出させるアメリカの私立高校では、タイプのスキルなしでは、とても生きてはいけません。そこで学校としても、まず初めに、このスキルのない生徒(ほとんどいないけど)を見極めることが必要になってくるらしいのです。
上手にタイプできない生徒は、通常は休日のはずの土曜日に、朝からコンピュータ・ルームで指導されるという話でした。
午前中にあった水泳の試験に落ちたため、すでに、追試のためのレッスンが予定が入っていた私は、ここでまた、いやな予感に襲われました。
"Kana Ishiguro."
と名前を呼ばれてコンピュータの前へ。次に何やら英語の文が1段落ほど書かれた紙を渡されました。試験官はストップ・ウォッチを手に、
「はい、はじめ」
とか言っています。またしても、憎き3分の制限時間。
両隣に座っている生徒は、涼やかな顔で紙に書かれた文をタイプし始めています。完璧なブラインド・タッチ(キーボードを見ずにタイプすること)!
文章の最初の文字は大文字の"I"でした。午前中のショックから立ち直れないまま、私は、 "I"をたくさんあるキーの中から一生懸命探し出そうとしたものの、キーボードを見て
「おや、これは、ABC順に並んでいるわけではない?!」
と気づくまでに数秒かかりました。やっとのことで"I"のキーを見つけて、右手の人差し指で押してみると、画面には大文字"I"ではなく小文字の"i"が出てしまいます。
???
課題が書いてある紙を見ると"I"とあります。そして、キーボードにも確かに"I"とある。しかし、やっぱりコンピュータのスクリーンには"i"が出ている。私の頭は、真っ白になってしまいました。
そして、
「どうやれば、"i"を"I"に変換できるのだろうか?」
という哲学的(?)な問いについて、まるで「考える人」のようなポーズで思案しているうちに、あっと言う間に3分が経過してしまいました。水泳試験のパート2のときは、あんなに長かった3分が! ううっ。
ここで、またまた、まさかの不合格(まさかじゃないよって? 当たり前だって? まあまあ、そう、つっこまないで)。
「アメリカに行ったら、英語ペラペラになってマイケル・ジャクソンとカール・ルイスと友だちになってくるよ〜」
なんて、意気揚揚と日本を後にした私は、ここで現実の壁にぶち当たったのでした。
「このままじゃ、みんなに会わせる顔が・・・」
個人的には、留学は〜年間にしよう、なんていう具体的な予定はなかったとはいえ、日本の高校には1年間だけ休学届を出してありました。
しかし、1日に2つの試験(英語はまったく関係ないのに)に落ちた私は、このとき感じたのです。この留学は、もしかしたら、とてつもなく長いものなる。
つづく。 |