『石黒加奈のちょびつき留学日記』も、お陰さまで、もう第6回です。たくさんのお便りありがとうございます。
それにしても、第5回までは、「私 / 僕は、石黒って人よりは、マトモだよね〜」という優越感を持てる以外、読者のためになる情報は何もないという指摘を受けましたので(苦笑)これからは、もっとお役に立てる留学日記を書いて行こう! と決心いたしました。
さて、水泳の試験とタイピングの試験で、かなりマイっていたものの、その後、すぐに、これから勉強する課目を決めなければなりませんでした。そこで相談に乗ってくれたのは、授業の選択するときにだけお世話になるアドバイザーの先生と、学校の生活全体にかんして常にサポートをして下さるアドバイザーの先生です。
授業選択のアドバーザーはドロシー先生という、年配の白人女性でした。いつも、自分でデザインして縫ったという素敵なワンピースを着ていて、500人もいる生徒全員の授業の選択にかかわっています。
数学の先生でもあって、最初の年は、私も教えていただきました。よく日本の数学教育は進んでいると言われていますが、もしかしたら、それは本当かもしれません。私は、中学生の頃、数学の宿題をゼンゼンやらなかったのですが(この留学日記を中学の頃の数学の先生が見ていないことを願う)、それでも、最初の年に取ったアルジブラ(代数学)のクラスには、あまり悩まされませんでした。
それどころか、数ヶ月たったある日、ドロシー先生に日本で使っていた高校の教科書を
"This is my textbook."
と言って見せると、教科書にある数式を見て
「こんなレベルの高い勉強をしていたのなら、あなたは、中学3年から高校1年に飛び級したほうがいいわ!」
と目を輝かせていました(私は、日本では高校1年生でしたが、ジョージ・スクールには中学3年生として入学していました)。"This is my text book." は、「これは、私の教科書です」となりますが、「この教科書の内容を理解している」という意味までは、含まれていないのに。
こんないい加減なことでいいのかと思いながらも、私は中学3年生(この学校には、中学3年生から高校4年生が暮らしているため、"Freshman" と呼ばれる)が住むホールで、中学3年生のルーム・メートと暮らしながら、学年は高校1年(「2年目」という意味で、"sophomore" と呼ばれる)となったのでした。
アルジブラのクラス以外にどんなクラスを選択したかと言うと、サイエンス系のクラスは生物、社会のクラスはアメリカ史(短いくせに、テキストの厚さは5センチもある)、ESL([=English as a Second Language]英語が母国語でない生徒のため英語のクラス)、芸術関係は、何かの間違いで演劇のクラスを取ることになりました。
ところで、日本で習っていた、優秀にして愛情の深いピアノの先生が、言葉の分からない国に行っても、どうにか人に理解してもらえるようにと、出発前にショパンのワルツを2曲とベートーベンのソナタを2曲、徹底的に教えてくださっていました。だから私は、まるでどんな曲でも暗譜でスラスラ弾けるような顔をして、みんなの前でいつもその4曲を弾いていたのです。それを聴いた、もう一人のアドバイザー(学校生活全般、すべてのことを指導してくれる)のアネット先生は、
"Kana, you should definitely take some private piano lessons."
(加奈は、ぜひ、プライベートでレッスンを続けるべきだわ!)
と授業とは別にピアノの先生を紹介してくれました。
新しいピアノの先生は、ベティという可愛い名前の先生でした。彼女は、その4曲以外、まったく下手クソな私を見て、
「あなた、ほんとうにピアノ弾けるの? 前の先生は、怒らなかった?」ときく代わりに "When I listen to you play the piano, I can feel how much your former teacher loved you."
「あなたのピアノの聴くと、日本にいるピアノの先生の愛情が分かるわ〜」
と言ってくださったものです。ものは言いようということを、このとき学びました。ははは。
こうして、何とか1年目のクラスが始まり、水泳やタイピングの課外レッスンをこなし、ピアノの練習をして、さらには、放課後は毎日2時間のスポーツもあって、とても忙しい毎日でした。
それに夕飯を食べたかと思うと、もう7時半からは、お部屋で自習の時間。先生が見回りに来るので、みんなマジメに勉強していました。
9時半には、自習の時間が終わって、みんなは、あーヤレヤレと休憩を取るのですが、フレッシュマンの住む寮は、なんと10時半に消灯のため、2時間ではとても宿題の終わらない私のような生徒は、10時半ぎりぎりまで粘ります。しかし、"Prefect"(監督生徒)と呼ばれる上級生に見つかって、
"Go to bed! Now!" (今すぐ、寝なさい!)
としかられながら、1日を終えるといった感じでした。
「今日は、クラスで先生に指されないように目をそらしていたら、やっぱり指されたから、明日は、積極的に目を合わせてみよう」なんて考えて、翌日実行してみると、やっぱりまた指されて、あらたに作戦を練り直す(1分ぐらい)、ということを毎晩ベットの中で繰り返して、眠りにつくのでありました。
つづく |