"I am from Zurich, Switzerland."
(アイ アム フラム ズォーリック スウィツァランドゥ)
「ゾォーリック」が日本語で言う「チューリッヒ」なのだとは、この時まだ、知りもしない筆者は、ポーッとしながら美青年を見つめておりました。
短く切られたこげ茶色の髪、どこか気だるそうなモスグリーンの目、白いTシャツとジーンズの上に羽織った黒のジャケット! こっ、こっ、これは、ジェームス・ディーン級にカッコイイではないか!
なんて、素晴らしい英語のクラスだろうか? なんて、美しい大学だろうか? なんて、活力に溢れる街NYCだろうか? とまあ、ちょびつき筆者は、この美青年を発見後しばらくバラ色の人生を送っておりました。
とはいえ、小心者の私は、その美青年とは挨拶すら交わしたことがないという有様でございました。
そこで、その美青年と同じ寮に住んでいるフランス人の女の子のソフィーちゃんに、美青年の情報をさりげなく聞き出すことに・・・・・・!?
でも、かといって、突如その彼の話だけ聞く訳にいかないので、クラスにいる他の学生の話から始める弱気な石黒さん。
すると、おしゃべり好きのソフィーは、彼女がステキだと思っているデイビッド君の話を延々と!
"You know, David and I live on the same floor, and we went out to a club in Soho. He is so sweet! He got me drinks, too. He knows what I like. It is amazing…"
(そうそう、デイビッドとあたしは、同じ寮の同じ階に住んでいるんだけれどね。ソーホーのクラブに一緒に行ったのよ。彼ったら、すごくスィートでねぇ。飲み物とか買ってくれたんだけれど、あたしが好きなものをちゃーんと知っているのよ。イカしてるでしょぉ・・・・・・)
「半永久的」にデイビッド君の話で盛り上がっています。
"And then, he went to mid-town to get his hair cut yesterday. Did you see it? I kind of liked his hair longer, but he looks sexier with it short, don't you think?"
(それからね、彼ったら、昨日、ミッドタウンで髪を切ったのよぉ〜。 見た〜ぁ? アタシ的には、前の長い髪の方が好きなんだけれど、でも、短い方がセクシーでしょう? そう思わない?)
そう思わないか、と聞かれて、"Oh, yeah. For sure." (ほんと、そうね) と相槌を打とうとすると、ソフィーちゃんは、すでに次の話に移っています。
"David and I are planning to go to Boston this weekend. His friend has a big van, so I am going to invite all my friends. You wanna come?"
(デイビッドとあたしは、週末、ボストンに行く予定なのよぉ〜。彼のお友だちが大きな車を持っているから、友だちをたくさん連れていくつもり。加奈も来る?)
と話は、ますます、違う方向へ……。
そこで、ようやく勇気を出して、美青年のことを聞くと、
"Yeah, he's nice."
(ああ、いい人よね)
とあっさり一蹴。
続いて、
"David and he are really good friends. David is from Geneva, so they speak in French. David and I, of course, speak in French, too."
(デイビッドと彼は、けっこう仲良しよ。デイビッドは、スイスと言ってもジュネーブの出身でね、彼らはフランス語で話しているわ。もちろん、あたしとデイビッドもフランス語で話すんだけれど)
とまたまた、デイビッド君の話に逆戻りです。
これでは、とても美青年の話を聞き出せそうにないと諦めた私は、次なる作戦を立てました! それは、英語のクラスのお友だちを、ホーム・パーティに招待するという壮大で画期的なものです。
さっそく、みんなに声をかけ、クラスメイトの誰かが、その美青年にも我が家のホーム・パーティ情報を流してくれるだろうと、ワクワクしていました。
パーティ当日、すごい人数の友だちが、次々にやってくるのですが、その美青年の姿はどこにもありません・・・・・・。
が、しかし、12時の鐘が鳴ると同時に(実際は、鳴っていません。笑)、ドアマンから内線の電話がありました。
"You have guests."
(お客様です)
来た―っ! シンデレラの魔法はとける時間だけれど、王子様はこういう時間に現れるのだ! そう確信してドアへ走っていくと、
"Hey, how're you doing? Thank you for inviting us!"
(こんばんは〜。ご招待ありがとう)
と、7人ぐらいで入ってきたスペイン人の友だちからキスの雨。
パーティは、8時から始まっているのにぃ〜。スペイン人は、平均3時間〜4時間ぐらい遅れてパーティに来るのが常識だとか。とほ、とほ、とほほ。
まあ、そんなこんなで、真夜中から陽気なスペイン人のお友だちを迎えて、パーティはさらに盛り上がり、筆者の暗い胸の内を読み取ろうとする者は、ただのひとりもいないという状況になりました。
ずいぶん後になって、美青年、ご本人に伺った情報によると、この晩のパーティの話は、まったくもって誰からも聞いていなかったとのことでした(涙)。
こういった経験を経て、「ステキな人に出会ったら、勇気を出して自分から挨拶しよう」をモットーに今日も、がんばってジャパンタイムズで働いている筆者なのでありました。
つづく |