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「ちょびつき留学英語日記」好評発売中!
未知の世界に飛び込んで、文化的背景の異なる人々と出会い、いつかその人たちのことを書いてみたい——。幼いころからそんな夢を抱いていた著者が、16歳で単身アメリカの高校へ留学。英語がほとんど通じず苦労したり、文化の違いにショックを受けつつも、さまざまな人に助けられながら卒業するまでの3年間をユーモラスにつづった青春記。

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留学日記[大学編]

By Kana Ishiguro / 石黒 加奈

16歳で単身アメリカ留学後、高校を卒業し、コロンビア大学に入学した筆者がトラブル続きの留学生活を振り返る「ちょびつき」留学日記・大学編
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Kana Ishiguro / 石黒 加奈

Vol. 18 : Dear Dr. O'Meally

私が、大学で文学部に入ることを決めたのは、ただただ本が好きだったからです。将来の就職をこうしようなどという計画は、まったくありませんでした。(←ちょっとは、考えなさいよ? ははは)

だから、就職活動のときは悲惨でしたが、そのエピソードはまた別の機会に譲るとして、今日は、文学部の授業の中でも特に好きだったAfrican-American Literature (アメリカ黒人文学)のクラスのことを書きます。

私が黒人文学に興味を持ったきっかけは、高校2年生のときに、トニ・モリソンというノーベル文学賞作家の『青い目がほしい』を読んだことでした。

留学中に英語ができなくて悩んだときや、日本を離れてひとりで暮らすことが辛くなったときでも、好きな作品になんども励まされ、そのことによって、さらに文学を学びたいという気持ちが強まりました。

3年もかかって必修科目を取り終えると、やっと好きな文学のクラスを取ることを許され、念願の黒人文学の授業を受けました。担当教授は、アメリカで初めて作られた黒人文学のanthology(名作集)の編者でもあるオミーリー教授でした。

このanthology は、それぞれの文学作品に影響を与えた音楽やスピーチなどが録音されたCDも付いているという特別なもので、ビリー・ホリデーの伝記作家でもあるほど、音楽に精通している教授は、そのCDの編集も担当しています。音楽と黒人文学は切り離せない関係にあると考えていたからです。

コロンビア大学は大きな大学なので、小さな大学で見られるような、教室内での教授と学生との親しい会話などは稀で、syllabus (その学期を通した予定表)が配布されると、淡々と授業が始まるというケースが一般的です。教授の意見は、常に確実なデータや統計をもとに語られます。意外かもしれませんが、文学のクラスと言えども、講義はビジネス・ライクに進みます。

けれども、オミーリー教授はまず、「なぜ、文学を勉強するのか」という哲学的なテーマについての個人的な意見を1回目のクラスでお話しになりました。

"Why do we study literature? It's to prepare our minds…to prepare them for a situation that we have not yet experienced. Let's say, right at this moment, a boy on a wheel chair came into this room. What would you do?"

(文学を勉強するのは、まだ体験したことのない、いろいろな状況に対して、心の準備をするためです。今、この教室に車椅子に乗った少年が入ってきたら、どうしますか?)

100人を超える学生のいる大きな教室でしたが、教授のまったく飾らない真摯な問いに、学生たちは心打たれている様子でした。

当時、教授は、50歳前後だったと思いますが、ハーバード大学から文学博士の学位を受けた、黒人文学のパイオニアです。人種差別だけでなく、あらゆる逆境を乗り越えてきているに違いない先生にとっての文学を学ぶ姿勢が、素朴で人間味に溢れていたことが新鮮に思えました。

3ヶ月半に渡る先生の講義は、私の一生の宝物になるほど素晴らしいものでしたが、私は知識そのものだけでなく、そういった知識を身につける意味までも、とても分かりやすい言葉で教えてくださったことに感謝しています。

知識を武器として使うばかりでなく、人間や物事を心から理解するためのツールだということを示してくれたからです。

オミーリー教授の文学に対する真摯な姿勢は、あらゆる場面でにじみ出ていました。

例えば、大学では、学生が教授の研究室に質問をしに行くことのできるオフィス・アワーという時間が設けられていました。普通、このオフィス・アワーを使うためには、アポイントメントが必要で、先生とお話できる時間は、ひとり10分から15分に限られていました。

けれども、オミーリー教授は、アポイントメントのためのsign up sheet は作らず、そのうえ学生がすべての質問をし終わるまで、いつまででも話を聞いてくれました。そのせいで、先生のオフィスの前には、いつも長い行列ができていましたが、春の木漏れ日が射す石造り建物の廊下で、好きな作家の作品を読みながら、先生に質問できる順番を待つ時間は、私にとって、もっとも幸せなひとときでした。

あるとき、
"Prof. O'Meally, how come you never put up a sign−up sheet?"
(教授はどうして、オフィス・アワーの予約シートをドアにお貼りにならないのですか?)
と訊ねると、
"How do you know how long it will take to answer all the students' questions?"
(学生の質問に全部答えるのにどのぐらい時間がかかるかなんて、分からないでしょう?)
と、穏やかに微笑まれました。

私は、授業中に自分から手を挙げて発言したことはほとんどなかったのですが、このクラスでは、そんな心の広い先生に勇気をもらって、ほかの学生の前で2度も自分の意見を発表することができました。滑稽に聞こえるかもしれませんが、それは7年の留学の中で、私にとって何よりも大きな出来事でした。

学期が終わりに近づくころ、リサーチペーパーを何度も先生に見てもらった私は、
"When do you sleep? You prepare your lecture, see students personally, work on a your own book, read students' papers…"
(先生は、いつ、お休みになられるんですか? 講義の準備をして、学生の質問に答えて、ご自分の本を執筆されて、学生の論文を直して・・・)
ときくと、
"I don't. I don't sleep during the semester."
(寝ないんだよ。学期中は寝ない)
と、天井まで本が積み上げられたオフィスで、さらりとおっしゃいました。

そんな教授が
"You have such a passion for literature. The kind of passion that's so rare. The perspective of an Asian woman on American literature is important."
(あなたは、文学に対する情熱があるね。アメリカ文学をアジア人の女性の視点で分析することは、とても重要になってくるよ)
と、大学院へ上がることを勧めてくださったときは、それまでの辛かった毎日の努力が、すべて報われたような気持ちでした。

いったんは大学を卒業して帰国してしまいましたが、その後、まだ、大学院への進学を考えていた時期に、教授が推薦状を書いてくださいました。

大学院に行って文学を勉強する夢は、いまだに実現していませんが、少しでも推薦状に書かれたような人間に近づけるようにと、私はいつも、その推薦状を持ち歩いています(ありちゃんからの手紙と一緒に...)。

つづく。

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