16歳から23歳までアメリカに留学したことで、よかったこともたくさんありますが、留学の負の財産とでもいいましょうか、マイナス面もあります(苦笑)。それは、たいへんな心配性になったような気がすることです。
言葉が通じないせいで、誤解したり誤解されたりの連続だったからかもしれません。"reconfirm"(再確認)を、何度でもしないと気が済まないような、一種の神経症的な側面ができたことは確かです(笑)。
そんな心配症の私がジャパンタイムズに勤務し始めたばかりのころは、夢の中で、同じ文章をなんども書いては消していたり、ジャパンタイムズのウェブサイトを作成するために、HTMLを繰り返し打っていたりする場面が頻繁に登場したのでありました。
もちろん、ストレスが溜まっていると、誰でも仕事の夢や怖い夢をみたりすることがあると思います。
私の父も、仕事で疲れていると、必ず同じ夢を見るとのこと。大学の入試試験の当日なのに、試験の勉強がぜんぜんできていない! という状況に自分が立たされている夢だそうです。もう今年で還暦を迎えるというのに、いまだに大学入試の夢に脅かされているなんて、何だか、おかしいですね(笑)。
それから、このコラムを編集してくださっているIさんも、仕事量が増えて寝不足になったり、無理をしていたりすると、不得意科目だった日本史や科学(でしたか?——いえ、世界史と数学です[編集者乱入!])の試験の夢をみるそうです。おっちょこちょいの私から見ると、Iさんは、冷静沈着を絵に描いたような方なので、これも、ちょっと意外で、笑っちゃ申し訳ないんですが、密かに「キキキ、Iさんがね〜。おかしいな」と思っていた次第です。
でも、そうやって他人様の不幸を笑っているような人間には、必ずその報いが来るというのが、この世の常ではありませんか…!?
3月になるまで先延ばしにしてきた青色申告のような事務的な仕事を筆頭に、4月から始まる『週刊ST』紙面での連載の打ち合わせや準備、講演会の原稿作成、本のPR用プレゼンテーションの準備などなど、たまたま事が重なっていたときに、私もそんな夢をふっと見てしまいました!
そうです、例のピアノの発表会の夢を! あの夢の恐ろしさときたら、もう、筆舌に尽くしがたいものがあります(涙)。
というのも、私が小学校時代からお世話になっているピアノの先生は、著名な音楽大学を卒業された絶対音感の持ち主で、ピアノに打ち込む姿勢ときたら並大抵のものではありませんでした。
「やる気がないのなら、辞めなさい」というのが、「この金さんの桜吹雪が目にはいらねぇかっ!」的な決め台詞で、もう、それを言われた日には、号泣して家に帰ったものでした。
私は、門下生の中でも、まったくのお荷物ちゃんでしたが、私から見れば上手に弾けている先輩、後輩たちも、先生のレッスンで泣かなかったことがないということで、先生の家に続く前の道は『なみだ坂』という名前が付いていたぐらいです。なんかクラシック音楽というより、演歌っぽい名前なんですが…(苦笑)。
特に発表会の時期となれば、自由になる時間をすべてつぎ込むというぐらいの練習が必須で、学校の期末試験前でも、勉強をする時間があったらピアノの練習をする、という有様でした。
ここまで練習していたのなら、発表会での演奏はさぞかし立派であっただろうと思われるかもしれませんが、ベートーヴェンのソナタをまるまる1ページすっとばしたうえに、余計なところを繰り返したりで、『悲愴』が『悲惨』になった発表会もありました。
このお決まりの夢は、発表会用のドレスを着た中学生の自分が舞台の袖から出て、お辞儀するところから始まります。観客を見渡すと、両親や祖父母が心配そうな顔をしてこちらを見ています。ホールの一番奥で腕を組んだ先生の視線もピアノの横に立つ私に注がれていて…。
キラキラ輝くスタインウェイのフルコンの前にちょこんと座って数小節を引くと、その先がぜんぜん分からないのです。最初の部分を何度も繰り返して弾くのですが、自分がまったく練習ができておらず、準備不足であることに気付く瞬間ときたら!
"What the hell was I thinking to even dream of performing at this concert!? Crazy!"
(どうして、こんな状態で発表会に出ているんだ! バカバカ! 私のバカ!)
と思っているところで目が覚めるのです。
まったくもって"Unbelievable!"(ありえない)な夢ですが、皆さんも4月が始まる前に、こんな恐ろしい夢を見ないようにリフレッシュしておきましょう!(苦笑)
Worry often gives a small thing a big shadow.
(心配事があるとちょっとしたことでも大きな不安を生みやすい)
ということで、4月からは、『週刊ST』紙面の連載「英語のことわざ・名言手帖」でも、お目にかかれれば幸いです!
つづく
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