アメリカの大学でお世話になったミラー教授が来日している、というエピソードは前回ご紹介させていただいた通り(前のエピソード)。先生は、東京、京都、そして広島、長崎などはもちろん、日本中を歩いて回ったことがある、とのこと。そんな先生でも、山梨県だけはまだ一度もいらしたことがなかったのです…。
そんなわけで、今回の滞在中に、ぜひ一度山梨を見てみたいとおっしゃって、遠路はるばる山梨県の八ヶ岳山麓まで遊びに来てくださいました。東京の新宿駅から特急あずさに乗って2時間ほどの旅です。
尊敬する大先生にご足労いただけるのはうれしい限りですが、教授先生をどこへお連れすればよいものやら、石黒親子はそろってアタフタするばかり。ところが、先生は、
"No problem, dear. My trip with students has been so hectic, so I'd love to just sit around and look at Mt. Fuji!"
(あら、心配しなくていいのよ。学生と一緒の社会科見学が、とってもたいへんだったから、富士山でも眺めて、少しゆっくりしたいから。)
と、まったく気にしていない様子。休養という目的であれば八ヶ岳高原はもってこいであろう、と安堵した次第です。
ところが、駅について荷物を下ろすなり、先生は、駅に貼ってあるポスターを一つずつ吟味しています!その顔は、真剣そのもの。そして、休養なぞはどこへやら、あっという間に、午後は地元にある2つの美術館に行くことに決定したのでありました(笑)。
まずは、『平山郁夫シルクロード美術館(http://www.silkroad-museum.jp/)』。先生と二人で大きな砂漠やラクダの絵の前に立つと、学生だったころにタイム・スリップしたよう。ところが、だんだん仏像の遺跡などが同じに見えてきた上に(苦笑)、先生の哲学トークも炸裂していきます。
こんな調子で見ていたら、次なる目的地である『清春美術館(http://www.kiyoharu-art.com/index.htm)』にたどり着くのが、閉館ギリギリになってしまいました。
さらには、移動中に近くの温泉の看板を見つけると
"I love Onsen!!"
(温泉、大好きなのよ〜)
ときました! 美術館のあとはぜひ温泉へ行こう、と大張り切りです。
2つ目の美術館もじっくり見学し、やっとたどり着いた温泉では、家族のことにまで話題がおよびました。私の父が馬術関係の仕事をしていると話すと、先生は、子供のころからつい最近まで馬術を習っていたというではないですか。
"Oh my goodness, let's go see the horses at your father's stable after the onsen!"
(まあ、素敵!温泉の後は、お父様が勤めていらっしゃる(馬術競技場の)厩舎で馬を見ましょうよ!)
と先生。
先生の乗馬人生について話を聞いているうちに、なんと人生最長の45分間も温泉につかってしまいました。フラフラしながら温泉をでると、
"Are you feeling faint?"
(あなた、のぼせちゃったの?ふふふ。)
と、後ろから、まだ元気いっぱいで温泉につかっている先生の声が聞こえてきました。
温泉を出てからは、なんとか水分補給をしてdehydration (脱水症状)は起こさずにすみましたが、美術館めぐりに疲れた私は、今度は、空腹に襲われる始末。逆に先生は、温泉効果で元気百倍。明日は東京のホテルへ帰るので、なんとしてでも今日馬を見るんだ、と目をキラキラさせています。
そして念願の厩舎にたどり着くと、大の馬好きの先生は、馬術競技場には50頭近い馬がいるというのに、
"Hello, baby. How are you? We're not gonna disturb your supper!"
(ハロー、調子はどう?夕飯の邪魔はしないからねぇ〜)
と、一頭一頭に話しかけているではありませんかっ!
やっとこさ家に帰る段になると、すっかり夕方過ぎになっていて、山々には深い霧が…。
"I love this mist. I can show these photos in my class and compare them with some of the Japanese paintings that portray this kind of mist. It would be so much fun!"
(あら〜、この霧が素敵!今度授業で、この霧の写真と、霧を描いた日本画と比較して見せられるわぁ〜。楽しみ〜)
と、霧の写真を撮りまくるミラー教授なのでありました。
帰宅して、お座敷天ぷらを堪能した後は、さすがに爆睡するかと思いきや、『源氏物語』と歌舞伎役者の坂東玉三郎に関するDVDを2本見るという強行軍。
先生のこのcuriosity (好奇心) こそ、歳を重ねるほど若くなる秘けつなんだなぁ、と感心しながらも、目の下に大きなクマができた己の顔を見ながら、思わず苦笑いせずにはいられませんでした。
つづく
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