先日、この週刊STオンライン読者のFさんのご好意で、地元に住むミステリー作家・辻村深月さんにお会いする機会がありました。辻村さんは10代のころから書き始め、大学を卒業してからさらに3年もの時をかけて書き上げた『冷たい校舎の時は止まる』で第31回メフィスト賞を受賞された、期待の新人作家さんです。
受賞後も、たくさんのミステリー/ファンタジー小説を発表されていて、大活躍中の辻村さんにお会いできるということで、ドキドキしながら甲府の待ち合わせ場所へ向かいました。
辻村さんの『冷たい校舎の時は止まる』は、ある進学校の高校生たちが、雪の降る日にキャンパスへ行くと、学校はまるで休校のようにひっそりしていて、気が付いたときには学校から脱出できなくなっている、という設定から始まります。
ひっそりした学校という意味では、実は、私も3度ほど体験があり、最初はまだ小学生のときでした。学校から配布されたプリントをちゃんと読んでいなかったせいで、PTA関係の行事で学校がお休みだと言うのに、一人登校してしまったのであります(苦笑)。
いつも一緒に登校する近所の女の子たちの家もなぜかひっそりして留守のようだったのですが、「あれ〜、今日はちょっと遅くなってしまったから、先に行っちゃったのかな〜」とキツネにつままれたような気持ちになったものです。
いよいよ学校に到着しても、校庭も校舎もシーンとしていて、大きなガラスドアは鍵が閉まっています。「全校集会でもやっているのかな〜」と、まだ休校であることに気付かない私は体育館まで見に行ったのですが、鍵がかかっているうえに物音一つ聞こえてきません。前日テレビで見ていた『ドッキリカメラ』が山梨に来たのか?とまで想像を膨らましてしまいましたが、なにも起こらないので仕方なくトボトボと帰路についたのでありました。
途中、同級生のお母さんとすれ違って「あれ〜、学校へ行っちゃったの?今日はお休みよ」と言われたときは、本当に恥ずかしかったです。
2度目は、中学生のときでした。大雪で学校が休校になったのですが、遠距離通学だったため、連絡網の最初に名前がある私は先生からの電話がある前に、いつもより早い電車に乗って甲府の中学校へ向かっていたのです。雪のせいで電車がたびたび止まり、2時間近くもかかってようやく学校へたどり着くと、校舎の電気は消えていて、下駄箱のあるあたりも暗くて、シーンとしています。事務の方が出てきて「今日、雪で休校になったの」と教えてくれたときは「えーい、明日までここでキャンプして過ごしてやるぅ」とかなりムキになってしまいました(苦笑)。
最後は、アメリカの高校でのことですが、そこは全寮制の学校ですので休校ということはありません。ただ、夏時間から冬時間に変わったことを英語で理解できず、朝の給食当番に1時間も早く出かけて行き、ひっそりとしたダイニング・キッチンでビクビクしながら一人たたずんだ記憶があります。
いずれにしても、お休みの日の校舎というものには、共通の冷たい空気やミステリアスな雰囲気があるものです。こうして何回も体験があるだけに、辻村さんの『冷たい校舎の時は止まる』を読んでいるときは、まるで自分がその冷たい校舎にいるような気分になってしまいました。
夜中過ぎになっても寝室で読んでいたのですが、なぜか修理に出して戻ってきたばかりの掛け時計が止まってしまって!?小説の中でも時間が繰り返し「ある時刻」へ戻って止まってしまう設定があるので、このときは本当にゾーッとしました。私はもともとお化け屋敷とか肝だめしとかは、まったく苦手なのですが、自分の寝室の時計が止まっていることに気付いた瞬間にはトイレにも行けないぐらいでした(単に電池がなかっただけ、と翌朝判明)。
実際、お会いしてみると、辻村さんは本当にきれいで気さくな方で「この小説の後半のorphanage(孤児院)の話は、本当にリアリティーがありました」と、生意気にもお話すると「大学生のとき、通っていたんです」と教えてくださいました。
実際に経験したことだからこそ説得力を持って書けるとも言えますが、逆に冷静さが欠けてしまったり感情移入しすぎて読者に伝わらないような文章を書いてしまう場合もあるということを、自分の体験から感じていたので「自分の体験したことを、あんな風に小説にできるなんて〜」と、あらためて尊敬の気持ちでいっぱいになりました。
11月2日号の週刊ST紙面での私の連載では、The darkest hour is just before dawn(最も暗きは夜明け前)ということわざを紹介させていただいた際に、辻村さんとのエピソードが詳しく書いてあるので、ぜひ、そちらもあわせてご覧ください!
つづく
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